Q&A

国際税制

 

他の特定外国子会社等から受ける配当等に係る控除の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2011.5.16  No.402 に掲載

1.控除対象配当等の額の控除

 本稿においては、外国子会社合算税制において、特定外国子会社等の適用対象金額の計算の一要素となっている基準所得金額を計算する場合に、その特定外国子会社等が他の特定外国子会社等から剰余金の配当等を受け取っているときの実務上の留意点について、検討を行うこととします。

 

 この基準所得金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び租税特別措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして一定の基準により計算されます(措法66の6②二)。

 

 内国法人に係る特定外国子会社等の各事業年度において、その特定外国子会社等がその内国法人に係る他の特定外国子会社等(注)から受ける配当等の額のうち、控除対象配当等の額とされる金額がある場合には、基準所得金額は日本法令に準拠する方法又は現地法令に準拠する方法により計算した金額からその控除対象配当等の額を控除した残額とされます(措令39の15③)。

 

(注)前回の記事(T&Amaster400号)において紹介した租税特別措置法施行令39条の15第1項4号に規定する子会社に該当する法人は、この取扱いの対象となる当該他の特定外国子会社等から除かれます(措令39の15③一括弧書き)。

 

 この「控除対象配当等の額」とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれに定める金額に相当する金額をいいます(措令39の15③)。

 

(1)特定外国子会社等が各事業年度において内国法人に係る他の特定外国子会社等から受ける配当等の額が当該他の特定外国子会社等の当該配当等の額の支払に係る基準日の属する事業年度(以下、「基準事業年度」といいます。)の配当可能金額のうち当該特定外国子会社等の出資対応配当可能金額を超えない場合であって、当該基準事業年度が課税対象金額又は個別課税対象金額の生ずる事業年度である場合 : 当該配当等の額(措令39の15③一)

 

(2)特定外国子会社等が各事業年度において内国法人に係る他の特定外国子会社等から受ける配当等の額が当該配当等の額に係る基準事業年度の出資対応配当可能金額を超える場合 : 当該他の特定外国子会社等の基準事業年度以前の各事業年度の出資対応配当可能金額をそれぞれ最も新しい事業年度のものから順次当該配当等の額に充てられるものとして当該配当等の額を当該各事業年度の出資対応配当可能金額に応じそれぞれの事業年度ごとに区分した場合において、課税対象金額又は個別課税対象金額の生ずる事業年度の出資対応配当可能金額から充てるものとされた配当等の額の合計額(同二)

 

 この(1)の「配当可能金額」と(2)の「出資対応配当可能金額」とは、それぞれ次の金額とされています。

 

① 配当可能金額

 特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額にその適用対象金額に係るイからハまでに掲げる金額の合計額を加算した金額からその適用対象金額に係るニ及びホに掲げる金額の合計額を控除した残額をいいます(措令39の15④一)。

 

イ 租税特別措置法施行令39条の15第1項4号又は2項17号により控除される子会社(租税特別措置法施行令39条の15第1項4号に規定する子会社をいいます。以下、同様です。)から受ける配当等の額

 

ロ 他の特定外国子会社等から受ける配当等の額につき控除される控除対象配当等の額

 

ハ 特定外国子会社等に係る租税特別措置法66条の6第1項各号に掲げる内国法人との間の取引につき移転価格税制の適用がある場合において、租税特別措置法施行令39条の15第1項又は2項の規定による減額をされる所得の金額のうちにその内国法人に支払われない金額があるときのその金額

 

ニ 当該各事業年度の剰余金の処分により支出される金額(法人所得税の額及び配当等の額を除きます。)

 

ホ 当該各事業年度の費用として支出された金額(法人所得税の額及び配当等の額を除きます。)のうち租税特別措置法施行令39条の15第1項又は2項の規定により所得の金額の計算上損金の額に算入されなかったため又は所得の金額に加算されたため当該各事業年度の適用対象金額に含まれた金額

 

② 出資対応配当可能金額
 特定外国子会社等の配当可能金額に次の割合を乗じて計算した金額をいいます(措令39の15④二)。

 

 

 ただし、特定外国子会社等が請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいいます。)の内容が異なる株式等又は実質的に請求権の内容が異なると認められる株式等を発行している場合には、上記の割合に替えて次の割合となります(措令39の15④二括弧書き)。

 

 

 

 

 

2.適用対象金額及び課税対象金額

(1)適用対象金額

 適用対象金額は、特定外国子会社等の各事業年度の基準所得金額から次に掲げる金額の合計額を控除した残額とされています(措令39の15⑤)。

 

① 特定外国子会社等の当該各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額の合計額に相当する金額

 

② 特定外国子会社等が当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額

 


 この①の欠損金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額について、基準所得金額の計算の規定を適用した場合において計算される欠損の金額をいいます(措令39の15⑥)。

 

 ただし、この規定又は租税特別措置法施行令39条の115(連結法人に係る特定外国子会社等の適用対象金額の計算)の5項の規定により当該各事業年度前の事業年度において控除されたものは、この欠損金額から除かれます(措令39の15⑤一括弧書き)。

 

 また、欠損金額の生じた事業年度について、昭和53年4月1日前に開始した事業年度及び特定外国子会社等(租税特別措置法40条の4第1項又は68条の90第1項に規定する特定外国子会社等を含みます。)に該当しなかった事業年度は対象から除かれます(措令39の15⑤一括弧書き)。

 

(2)課税対象金額

 課税対象金額は、特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額に、次の割合を乗じて計算した金額とされています(措令39の16①)。

 

 

 

3.控除対象配当等の額の控除に係る留意点

 内国法人に係る特定外国子会社等が他の特定外国子会社等から剰余金の配当等を受ける場合における控除対象配当等の額の控除の適用に関する留意点を検討することとしますが、次の図の例を用いて、AがBから受ける配当等の額のうち、Aの基準所得金額の計算上、控除対象配当等の額となる金額がどうなるのかということを考えて見ることとします。

 

【図】

 

 Bの決算状況等は、次ののとおりです。

 

【表】


(1)Bが適用除外要件を満たしたためにX2年12月期の合算課税がない場合

 BがX3年12月期を基準事業年度として、Aに配当等の額160を支払った場合には、160の配当等の額はX3年12月期の出資対応配当可能金額100、X2年12月期の出資対応配当可能金額35、X1年12月期の出資対応配当可能金額25から充てられると考えられます。

 

 ただし、X2年12月期については適用除外要件を満たしており合算課税の対象とならず、課税対象金額が生じないため、AがBから受ける配当等の額160のうち控除対象配当等の額となるのは、125(=100 +25)となり、残りの35は合算課税の対象となります。

 

(2)Bが特定外国子会社等に該当しなかったためにX2年12月期の合算課税がない場合

 上記(1)と同じく、BがX3年12月期を基準事業年度として、Aに配当等の額160を支払った場合には、160の配当等の額がどの事業年度の出資対応配当可能金額から充てられるのが問題となります。

 

 租税特別措置法施行令39条の15第4項1号に規定される「配当可能金額」は各事業年度の適用対象金額に調整を加えて計算されますので、適用対象金額の存在が大前提となります。この適用対象金額は、各事業年度の基準所得金額から前7年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額を控除して計算することとされており、特定外国子会社等に該当しなかった事業年度については、欠損金額が発生した事業年度から除かれています。

 

 このような取扱いとする趣旨は何かと考えてみると、特定外国子会社等が常に基準所得金額を計算していることを前提としつつ特定外国子会社等に該当しなかった事業年度に発生した欠損金額は使用させないということか、あるいは、特定外国子会社等に該当しない場合にはそもそも基準所得金額の計算が行われることがないために欠損金額の控除といったことも有り得ないということのいずれかであると考えられます。

 

 この点について、外国子会社合算税制の創設時の考え方を確認してみると、次のように述べられています。

 

 「 特定外国子会社等の昭和53年4月1日以後に開始する事業年度の所得が合算課税の対象とされていることから、昭和53年4月1日前に開始する事業年度において生じた欠損金は、繰越控除の対象とされません。また、特定外国子会社等に該当しなかった事業年度において生じた欠損金も繰越控除の対象とされません(措令25の9③、39の14③)。」(『昭和53年 改正税法のすべて』163頁)

 

 この記述からすると、特定外国子会社等に該当しない事業年度における所得や欠損の金額は、外国子会社合算税制に関わる適用対象金額等の対象外に置かれていると解してよいと考えられます。

 

 したがって、Bが特定外国子会社等に該当しなかった事業年度においては、当該事業年度におけるBの適用対象金額となるものはそもそも存在しない、と考えることができるものと思われます。

 

 これを受けて、出資対応配当可能金額を検討してみると、160の配当等の額に充てられるべきX2年12月期の出資対応配当可能金額はなく、充てられる事業年度の出資対応配当可能金額はX3年12月期の100及びX1年12月期の50となります。 AがBから受ける配当等の額160のうち控除対象配当等の額となるのは、150(=100+50)となり、残りの10は合算課税の対象となります。

 

 このように控除対象配当等の額の計算においては、他の特定外国子会社等に合算課税のない事業年度が過去に存在する場合には、適用除外要件を満たしたために合算課税がないのか、特定外国子会社等に該当しなかったために合算課税がないのかにより、結果が異なってきますので、実務においては、十分に留意する必要があります。