Q&A

組織再編税制

 

分割に際して未経過固定資産税相当額の金銭が交付される場合の
    取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2011.5.23 No.403 と、2011.6.20 No.407 に掲載

 当社は、来年の4月1日に分割により固定資産を分割承継法人(当社と資本関係のない法人)に移転する予定となっていますが、来年の1月1日にはまだこの固定資産を持っていますので、来年も、この固定資産に課される固定資産税を支払わなければなりません。

 

 しかし、この固定資産に関しては、来年の4月1日に分割によって分割承継法人に移転することになるため、この固定資産税の12分の9(来年の4月から12月までの9月分)を固定資産税の負担金として分割承継法人から現金で支払ってもらい、その支払ってもらった現金と当社の負担分である12分の3(来年の1月から3月までの3月分)の現金とを合わせて納税したいと考えています。

 

 この場合、分割の税制上の取扱いは、どのようになるのでしょうか。

要 旨

【マエストロの解説】
 固定資産の取引においては、1月から12月まで(地域によっては、4月から翌年の3月まで)の1年間について固定資産税を負担するべき期間と考えて、その取引後の期間に対応する固定資産税に相当する金額(以下、「未経過固定資産税相当額」という。)を受け払いする実務が存在している。固定資産の移転を受けた者においては、その固定資産の代価に加えて、この未経過固定資産税相当額をその固定資産を移転した者に支払うわけである。

 

 このように、分割において、固定資産が移転することに伴い、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが行われるということになると、分割が適格分割となるのか否か、また、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いがある場合の取扱いがどのようなものとなるのかという問題が生ずることとなる。

 

 以下、解説を行う項目は、次の目次のとおりである。

 

目     次

1.未経過固定資産税相当額の金銭を受け払いする分割の適格判定

(1)組織再編成において金銭等が交付される場合の適格判定

①1株未満の株式の代り金

②親法人株式等の端数の代り金

(2)未経過固定資産税相当額の金銭の性格と分割の適格判定

①未経過固定資産税相当額の金銭の特殊性

②適格判定の規定の趣旨

③未経過固定資産税相当額の金銭を受け払いする分割の適格判定における取扱い

2.分割において未経過固定資産税相当額の金銭の受け払いがあった場合の取扱い

(1)非適格分割の場合の取扱い

①分割型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

ロ 分割承継法人の取扱い

②分社型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

ロ 分割承継法人の取扱い

(2)適格分割の場合の取扱い

①分割型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

ロ 分割承継法人の取扱い

②分社型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

ロ 分割承継法人の取扱い

(3)未経過固定資産税相当額の金銭の受払いがある場合の分割の取扱いの一覧

 

1.未経過固定資産税相当額の金銭を受け払いする分割の適格判定

(1)組織再編成において金銭等が交付される場合の適格判定

 組織再編成に関する適格判定は、資産等の移転の対価として金銭等が交付される場合には非適格とするという点で共通となっている。

 

 しかし、法令や通達において、1株未満の株式の代り金、親法人株式等の端数の代り金、剰余金の配当等として交付される金銭等、反対株主の買取請求に基づいて交付される金銭等が交付されても、それをもって組織再編成を非適格とはしないこととされている。

 

 これらのうちの1株未満の株式の代り金と親法人株式等の端数の代り金に関しては、法人税法における適格判定の規定の解釈として、株式以外の資産に含めずに適格判定を行う、とされている。適格判定においても、画一的に対応するのではなく、特別なものに関しては、別途、適切な対応をとることとされているわけである。

 

 剰余金の配当等として交付される金銭等と反対株主の買取請求に基づいて交付される金銭等に関しては、適格合併の場合には、法人税法2条(定義)の12号の8の規定において、「いずれか一方の株式又は出資以外の資産」から「当該株主等に対する剰余金の配当等(省略)として交付される金銭その他の資産及び合併に反対する当該株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産」を除いて適格判定を行う、と定められている。

 

<参考>

 剰余金の配当等として交付される金銭等について考えてみると、いわゆる「配当落ち」の例からも分かるとおり、剰余金の配当等があれば株式の譲渡対価の額がその剰余金の配当等の額に相当する金額だけ減少するという関係にあるため、組織再編成に際して剰余金の配当等として交付される金銭等に関しては、これを「いずれか一方の株式又は出資以外の資産」から除かずに適格判定を行う仕組みとするという選択肢も立法論としては有り得る、ということになる。
 また、組織再編成に際して反対株主の買取請求に基づいて交付される金銭等に関しても、組織再編成を全体として見れば、移転資産等の「対価」と捉えることが可能であり、これを「いずれか一方の株式又は出資以外の資産」から除かずに適格判定を行う仕組みとするという選択肢も有り得る。現に、アメリカの組織再編成に関する税制においては、反対株主等に交付される金銭等を含めて、我が国の適格判定に対応する判定を行うこととされている。

 

 以下、①と②において、このような点を踏まえつつ、1株未満の株式の代り金と親法人株式等の端数の代り金に関して、もう少し詳しく内容を検討しておくこととするが、その検討等の便宜を考慮して、ここで関係法令等の確認を行っておくこととする(図表1参照)。

 

【図表1】組織再編成の対価に含まれる1株未満の株式の代り金等の取扱いに関する法令等

 

 

① 1株未満の株式の代り金

 法人税基本通達1-4-2(合併等に際し1株未満の株式の譲渡代金を被合併法人等の株主等に交付した場合の適格合併等の判定)においては、次のように述べられている。

 

「 法人が行った合併が法第2条第12号の8《適格合併》に規定する適格合併に該当するかどうかを判定する場合において、被合併法人の株主等に交付された金銭が、その合併に際して交付すべき合併法人の株式(出資を含む。以下1-4-2において同じ。)に1株未満の端数が生じたためにその1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し、又は買い取った代金として交付されたものであるときは、当該株主等に対してその1株未満の株式に相当する株式を交付したこととなることに留意する。ただし、その交付された金銭が、その交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的に当該株主等に対して支払う合併の対価であると認められるときは、当該合併の対価として金銭が交付されたものとして取り扱う。
 法人が行った株式交換又は株式移転が法第2条第12号の16《適格株式交換》又は第12号の17《適格株式移転》に規定する適格株式交換又は適格株式移転に該当するかどうかを判定する場合についても、同様とする。
(注)(省略)」

 

 このように、合併等に際して交付される1株未満の株式の代り金に関しては、その経済的実質が1株未満の株式を交付することに代えてその時価に相当する金銭等の交付を行うものであるということを理由として、法人税基本通達により、交付される金銭等を株式と見て適格判定の規定を解釈するとしているわけである。

 

 これは、金銭等が交付される場合であっても、適格判定の規定については、解釈によって適格と判定することがあり得る、ということを示すものとなっている。

 

 ところで、この1株未満の株式の代り金に関しては、その発生の基因となる1株未満の株式と重複して交付されることはなく、移転する資産等の対価の額はこの1株未満の株式の代り金とそれ以外の株式等の時価との合計額となっている、という点にも留意する必要がある。

 

 このように、1株未満の株式の代り金は移転する資産等の対価の一部であるため、組織再編成が非適格となってその移転する資産等の譲渡損益を計算するということになた場合には、当然のことながら、その移転する資産等の譲渡損益の計算上の譲渡収入の一部とされることになる。

 

 「適格分割」に関して見てみると、法人税法2条12号の11にその定義が置かれているが、そこでは、「分割対価資産として分割承継法人の株式又は分割承継親法人株式(省略)のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないもの(省略)」とされており、この「分割対価資産」とは、法人税法2条12号の9イ括弧書きにおいて「分割により分割法人が交付を受ける分割承継法人の株式(省略)その他の資産をいう」とされている。このため、その文言を字句どおりに解すれば、分割に際して交付される1株未満の株式の代り金はこの「分割対価資産」に含まれることとなる。

 

 しかし、法人税法2条12号の11の規定の上記の部分に関しては、その文言を常に字句どおり形式的に解するのではなく、「分割対価資産」の内容を分析して、1株未満の株式の代り金が含まれている場合には、それを除いた上で同号の規定を適用するべきものと解されている。

 

<参考>

 平成18年度改正による旧法人税法施行令123条の2の2(分割法人の株主等に交付されるべき分割承継法人の株式の端数の取扱い)の創設を受けて行われた改正前の法人税基本通達1-4-2においては、合併に関して現行の記述と同様の記述があり、その記述を受けて、「法人が行った分割が法第2条12号の11《適格分割》に規定する適格分割に該当するかどうかを判定する場合も、同様とする。」との文言が存在していた。
 旧法人税法施行令123条の2の2は、その後、平成20年度改正において、法人税法施行令139条の3の2(合併等により交付する株式に一に満たない端数がある場合の所得計算)の2項として、一部、修正を加えた上で、承継されているが、これらの規定は、いずれも所得の金額の計算に関する定めであって、適格判定の定めではない。
 ただし、法人税基本通達1-4-2から上記の文言が削除されたのは、政令により所得の金額の計算においてその取扱いが定められたため、適格判定における取扱いにおいても疑義がなくなった、という理解によるものと考えられる。

 

 既に述べたとおり、分割に際して資産等の移転を受ける分割承継法人が交付するものは、分割を全体として見れば、その全てが「対価」となるはずであるが、適格判定の場面においては、その「対価」の内容がどのようなものとなっているのかを分析し、そこに1株未満の株式の代り金が含まれているということであれば、その1株未満の株式の代り金については、適格判定の規定である法人税法2条12号の11の「いずれか一方の株式以外の資産」には該当しない、とすることになるわけである。

 

②親法人株式等の端数の代り金

 「親法人株式等」とは、法人税法2条12号の8括弧書きにおいて「合併法人との間に当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人の株式又は出資をいう」とされており、平成19年度改正において三角合併に適格要件を拡大するに当たって新たにその定義が設けられたわけであるが、その後、平成20年度改正で新たに設けられた親法人株式等の端数の代り金の取扱い(法令139の3の2①~③)は、組織再編成税制の適格判定における「対価」に関する考え方を確認する上で参考となるものとなっている。

 

 三角合併に際し、合併法人は、合併親法人から取得して資産として保有している親法人株式等を対価として交付することとなるが、この際には、合併交付金として金銭等を交付する場合と同様に、その有する資産を減少させる処理を行うこととなり、合併法人株式を交付する場合のように資本金等の額を増加させる処理を行うわけではない。このような点からすると、親法人株式等の端数の代り金の交付は、上記(1)で述べた合併法人株式の1株未満の株式の代り金の交付よりも、なお一層、合併交付金の交付に近い、と考えることができる。
 この親法人株式等の端数の代り金に関しては、平成20年度改正において、これを親法人株式等と同様に取り扱うこととし(法令139の3の2①)、分割型分割と株式交換においても同様とされているわけであるが(同②・③)、この改正に関しては、次のように説明されている。

 

「 法人が自己を合併法人とする合併により合併対価として親法人株式等を交付する場合において、被合併法人の株主が交付を受けることとなる親法人株式等に1に満たない端数が生ずることとなり、その端数に代えて金銭が交付されたときに、「親法人株式等以外の資産が交付されないこと」(法法2十二の八、法法61の2②)という要件に該当しているといえるのか、不明確であるとの指摘もあったところです。
 この対価要件の判定に当たって、親法人株式等の端数相当金額が交付された場合には、それは端株制度がないことにより端株に代えてやむを得ず交付されたものであるため、合併法人株式が交付される場合と同様に、一旦親法人株式等が交付されたものとして取り扱うべきと考えられます。(省略)これにより、合併対価として親法人株式等を交付する合併において、親法人株式等の1に満たない端数に代えて金銭が交付された場合には、その金銭を親法人株式等としてその合併が適格合併の要件及び被合併法人の株主の旧株の譲渡損益の計上を繰り延べる合併の要件のうち対価要件に該当するか否かを判定することが明確化されたものといえます。」(『平成20年度 税制改正の解説』(財務省)335頁)

 

 この平成20年度改正で新たに設けられた法人税法施行令139条の3の2第1項から3項までの規定は、法人の各事業年度の所得の金額の計算に関する定めとなっており、適格判定の規定に関して定めるものではないが、上記のとおり、『平成20年度 税制改正の解説』によれば、適格要件においても、親法人株式等の端数の代り金に関しては、これを親法人株式等として判定をするべきであり、それが平成20年度のこれらの規定の改正によって明確化された、と認識されている(注)。そして、このような取扱いとするべき理由に関しては、「やむを得ず交付されたものであるため」とされている。

 

(注)法人税法施行令139条の3の2第1項から3項までの規定は、適格判定の規定ではないため、平成20年度改正においては、適格判定に関しては、法人税法の規定の解釈により、親法人株式等の端数の代り金を親法人株式等として判定をするべきであると考えられていた、ということになる。

 

 ところで、この親法人株式等の端数の代り金を親法人株式等として適格判定を行うこととしたとしても、上記①の1株未満の株式の代り金の場合と同様に、他の適格要件に抵触し、合併が非適格となることも有り得る。この場合に、どのような取扱いとなるのかということを考えてみると、親法人株式等の端数の代り金は、1株未満の株式の代り金と同じように、合併によって移転する資産等の対価を構成するものであるため、被合併法人において、移転する資産等の譲渡損益の計算上の譲渡収入の一部とされることとなる。

 

 このことは、合併によって移転する資産等の譲渡損益を計算する場合に親法人株式等の端数の代り金が被合併法人において譲渡収入とされるということが、その組織再編成が適格であるのか否かということを判定する場合に親法人株式等の端数の代り金が被合併法人において交付を受ける金銭等とされるということを意味するわけではない、ということを示している。

 

 組織再編成が適格であるのか否かということを判定する場面と、その組織再編成によって移転する資産等の譲渡損益を計算する場面は、相互に連動する部分を有しつつも、異なる場面となっていることは、改めて言うまでもない。

 

(2)未経過固定資産税相当額の金銭の性格と分割の適格判定

①未経過固定資産税相当額の金銭の特殊性

 分割承継法人から分割法人に交付される未経過固定資産税相当額の金銭も、分割を全体として見れば分割によって移転する資産等の対価の一部と見るべきものであって、分割に際して交付される金銭であることに変わりはない。これは、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが固定資産の移転と離れて別の取引として存在し得ないことからしても、明らかである。組織再編成の全体を俯瞰して、上記(1)において述べた1株未満の株式の代り金、親法人株式等の端数の代り金、剰余金の配当等として交付される金銭等、反対株主の買取請求に基づいて交付される金銭等の4つの位置関係(図表2参照)を確認してみると、前の2つが合併や分割の中の取引とされており、後の2つが合併や分割の外の取引とされているわけであるが、未経過固定資産税相当額の金銭は、前の2つと同様に、組織再編成の中の取引となっているわけである。

 

【図表2】組織再編成における未経過固定資産税相当額の金銭の位置関係

 

 しかし、この未経過固定資産税相当額の金銭は、移転する固定資産の対価そのものである1株未満の株式の代り金や親法人株式等の端数の代り金とも異なり、分割によって移転する固定資産に課される固定資産税のその移転後の期間に対応するものとなっていることがその算出方法から明らかである。分割を含む組織再編成においては、移転する資産の公正価値をその資産から得られる将来のキャッシュフローによって算出する方法によって求めることが多くなっているが、分割によって移転する固定資産のこの方法によって求めた公正価値は、この未経過固定資産税相当額の金銭の有無や多寡によって変わることはない。

 

 要するに、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いは、固定資産を移転する取引の一部となっているものであり、固定資産を移転する取引と別の取引ということではないが、固定資産そのものの移転と未経過固定資産税相当額の金銭の受払いとをまったく同一と見ることはできず、両者には相違がある、ということである(図表3参照)。

 

【図表3】未経過固定資産税相当額の金銭の受払いと取引の関係

 

 また、固定資産の譲渡取引においては、固定資産税を保有期間に応じて負担するのが合理的であるという認識が広く存在し、そのために、固定資産を移転する取引を行う場合には、未経過固定資産税相当額の金銭を受け払いするという実務が慣行的に広く行われてきたことにも留意する必要がある。固定資産を移転する取引において未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが行われるケースがどの程度の割合となっているのかということは明らかではないが、その慣行があるところでのみ行われる借地権取引などとは異なり、相当額の固定資産税の課税が行われる固定資産を移転する取引においては、かなり高い割合で未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが行われている可能性がある(注)。

 

(注)分割においても、固定資産を移転することとなるため、未経過固定資産税相当額の受払いをするべきであるが、法人税の取扱いが不明確で税に関して大きなリスクがあるために行い得ない、との指摘がなされてきた。
 特に、税制改正の直後の時期などにおいては、税制上の取扱いが明確でないために、取引を行うことが難しいという例や取引の内容が変わってしまうという例が生ずることがあるが、本件に関しても、組織再編成において未経過固定資産税相当額の金銭の受払いをした場合の税制上の取扱いが不明確であるということが実務に大きな影響を与えているという現実を踏まえた上で、検討を行う必要がある。

 

 未経過固定資産税相当額の金銭には、このような特殊性があるわけであるが、その取扱いは、当然、このような特殊性を考慮したものとなっていなければならない。

 

② 適格判定の規定の趣旨

 法人税法2条12号の11の適格分割の定義は、他の適格組織再編成の定義と同様に、移転資産に対する支配が継続していると考えられるものについて移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べるという趣旨によって設けられたものである(注)。

 

(注)「 このように、形式上は資産を他の法人に移転したが、実質上はまだその資産を保
有していると言うことができる状態を、「移転資産に対する支配が継続」している状態
と呼び、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる課税特例の対象とすることとされたわ
けです。」(朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』(日本租税研
究協会、平成13年)25頁)

 

 そして、移転する資産の対価として金銭等を交付する場合には非適格とすることとされているが、これは、次の引用からも分かるとおり、そのような組織再編成については、その経済実態が通常の売買取引と異ならない、と考えられるためである。

 

 「 いずれの場合にも、移転資産の対価として金銭等の株式以外の資産が交付される場合には、その経済実態は通常の売買取引と異なるところがなく、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることは適当でないと考えられる。」(「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」第二、一(税制調査会 平成12年10月3日))

 

 ただし、この適格判定に関しては、移転する資産の対価として交付する金銭等の多寡にかかわらず、1円でも交付する場合には、非適格とする、という割切りがなされている。

 

③ 未経過固定資産税相当額の金銭を受け払いする分割の適格判定における取扱い

 上記①で述べたとおり、分割によって移転する固定資産の未経過固定資産税相当額の金銭の受払いに関しては、分割を全体として見た場合には対価の受払いとなるものではあるが、その固定資産そのものの対価の受払いとは言い難いこと、そして、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いを行う実務が慣行的に行われてきたということ、この2つをその特殊性として挙げることができる。

 

 また、上記②で述べたとおり、移転資産の対価として金銭等を交付する組織再編成を非適格とした趣旨は、そのような組織再編成はその経済実態が通常の売買取引と異ならないと考えられるということである。

 

 このような点からすると、上記①で述べた特殊性のある未経過固定資産税相当額の金銭の受け払いをする分割が上記②で引用した「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」で述べられている「通常の売買取引」と異ならないということになるのか否かということが問題となるわけであるが、これに関しては、固定資産そのものの対価として金銭等が交付されるのか否かによって「通常の売買取引」と異なるのか否かを判定するのが適切である、ということとなるものと考えられる。例えば、分割において移転する固定資産の未経過固定資産税相当額の金銭のみが交付されてその固定資産そのものの対価として交付される金銭がまったくないという場合には、その分割を「通常の売買取引」と異ならないと見ることはできない、と言わざるを得ない。このような点からすると、分割において、移転する固定資産の未経過固定資産税相当額の金銭のみが交付されてその固定資産そのものの対価として交付する分割承継法人の株式以外の資産がまったくないという場合には、その分割を非適格とするのは妥当でない、ということになろう。

 

 仮に、移転する固定資産の未経過固定資産税相当額の金銭の交付があることをもって分割を非適格とするということになれば、移転する固定資産そのものの対価として交付する分割承継法人の株式以外の資産があるのか否かにかかわらず、慣行に従うのか否かによって適格か否かを決めるということになってしまうが、そのような取扱いは、個々の組織再編成ごとにその経済実態に即して適格判定を行おうとする法人税法2条12号の11の規定の趣旨に合わないものである。

 

 

 

2.分割において未経過固定資産税相当額の金銭の受け払いがあった場合の取扱い

 分割に際し、固定資産を移転して未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが行われた場合には、この未経過固定資産税相当額の金銭をどのように取り扱うのかという問題が生ずることとなる。この問題は、分割が適格となるのか否かという上記1で述べた定義の場面の問題ではなく、その定義の場面の問題に結論が出た後の所得金額の計算の場面における問題であることを改めて確認した上で検討を進めることとする。

 

 この未経過固定資産税相当額の金銭については、分割が適格であるのか非適格であるのかによって取扱いに異なる部分が生じてくることとなるが、以下、非適格分割と適格分割に分けて解説を行うこととする。

 

(1)非適格分割の場合の取扱い

①分割型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

 分割法人が非適格分割によって移転する固定資産の未経過固定資産税相当額の金銭を受け取った場合には、まず、法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)の規定の別段の定めである62条(合併及び分割による資産等の時価による譲渡)の規定の適用を受けることとなるのか否かを検討する必要がある。
 法人税法62条1項においては、次のように定められている。

 

「 内国法人が合併又は分割により合併法人又は分割承継法人にその有する資産及び負債の移転をしたときは、当該合併法人又は分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該合併又は分割の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。この場合においては、当該合併により当該資産及び負債の移転をした当該内国法人(省略)は、当該合併法人から新株等(当該合併法人が当該合併により交付した当該合併法人の株式(省略)その他の資産(第二十四条第二項(省略)に規定する場合において同項の規定により同項に規定する株式割当等を受けたものとみなされる当該合併法人の株式その他の資産を含む。)をいう。)をその時の価額により取得し、直ちに当該新株等を当該内国法人の株主等に交付したものとする。」

 

 未経過固定資産税相当額を受け取った分割法人は、この法人税法62条1項の規定の「分割承継法人にその有する資産及び負債の移転をしたとき」に該当することとなり、分割法人が分割によって固定資産を分割承継法人に移転して未経過固定資産税相当額の金銭を受け取った場合には、同項の規定の適用がある、ということになる。

 

 そして、この場合には、その固定資産の「分割の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する」とされているわけであるが、これは即ち、上記1(2)②において述べたとおり、その固定資産について「通常の売買取引」として処理を行うことが必要となるということを意味している。

 

 このため、固定資産を通常の売買取引によって移転した場合の処理がどのようになるのかということを確認する必要がある。
 法人が固定資産を通常の売買取引によって移転した場合の法人税法上の取扱いは、22条によることとなり、分割法人は、その有する固定資産を売却した内国法人として、同条2項及び3項の規定の適用を受けることとなる。

 

 法人が固定資産を通常どおり売買して未経過固定資産税相当額の金銭を受け取らなかったとした場合の法人税法22条2項及び3項の規定の適用関係には疑義がないことから、以下、法人が固定資産を通常どおり売買して未経過固定資産税相当額の金銭を受け取ったとした場合のその未経過固定資産税相当額の金銭がどのように取り扱われることとなるのかということを検討することとする。

 

 法人が受け取る未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、それが法人の所得の金額を増加させるものであることに疑義はなく、それが法人税法22条2項の規定によって益金の額として所得の金額を増加させることとなるのか、あるいは、3項に規定する損金の額を減少させることによって所得の金額を増加させることとなるのかということが疑問点として残ることとなる(注)。

 

(注)未経過固定資産税相当額の金銭が分割法人の益金の額を増加させることとなったとしてもまた、損金の額を減少させることとなったとしても、結果的には所得の金額を増加させるという点では変わりはないことから、その検討の実益は乏しいということになるが、後に述べる適格分割の取扱いの検討の前提として、法人税法22条2項と3項のいずれの規定が適用されることになるのかという点をここで明確にしておくこととする。

 

 これと同種の問題は、従業員を出向させる場合の給与・退職金の負担や共同で試験研究を行なう場合の試験研究費の按分においても生ずることとなるが、この問題は、基本的には、その発生の基因となる損金の額が一方の法人のみの損金の額であるのか、あるいは、双方の法人の損金の額であるのかということによって、答が変わってくることとなる。

 

 未経過固定資産税相当額に関しては、その発生の基因となる固定資産税が分割法人のみの損金の額であるのか、あるいは、分割法人と分割承継法人の双方の損金の額であるのかということが問題となるわけであるが、周知のとおり、固定資産税は分割法人の損金の額であって分割承継法人に固定資産税が課されることはない。

 

 このため、固定資産税は分割法人においてのみ損金の額として生じ、分割法人が受け取る未経過固定資産税相当額の金銭は、分割法人の益金の額となることとなる。

 

 この分割法人が受け取る未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、固定資産税の一部を負担させる負担金収入として益金の額となるのか、あるいは、移転資産等の譲渡収入の一部として益金の額となるのかという疑問が生ずることとなる。

 

 すなわち、分割法人が受け取る未経過固定資産税相当額の金銭が法人税法22条2項の「資産の譲渡」取引に係る収益であるのか、あるいは、「その他の取引」に係る収益であるのかという疑問である(注)

 

(注)法人税法22条2項や3項の規定の適用を受けるものに関しては、益金の額や損金の額ということになれば、それらの内容がどのようなものであったとしても所得金額を増加させたり減少させたりすることとなるわけであり、それらがどのような内容となっているのかということを問題とする必要はないわけであるが、後に述べる適格分割の取扱いの検討の前提として有益であるため、ここで上記の疑問に関する検討を行っておくこととする。

 

 これに関しては、先に結論を述べると、分割法人が受け取る未経過固定資産税相当額の金銭を「資産の譲渡」取引に係る収益の額と解するのが適当であると考えられる。

 

 分割法人が受け取る未経過固定資産税相当額の金銭は、分割により固定資を移転することによって受け取ることとなるものであり、その算出方法が固定資産税の移転後の期間に対応するものとなっているとしても、既に述べたとおり、分割を全体として見れば、分割によって移転する資産等の対価の一部と見るべきものである。

 

 法人税法2条12号の9イ括弧書きにおいては、「分割対価資産」を「分割により分割法人が交付を受ける分割承継法人の株式(省略)その他の資産をいう」としており、分割により固定資産を移転することによって受け取ることとなる未経過固定資産税相当額の金銭は「分割対価資産」に含まれると解されるが、このことは、未経過固定資産税相当額の金銭を分割によって移転する資産等の対価の一部と見ることができるということを示すものと捉えることができる。

 

 固定資産を通常どおり売買した場合の処理が以上のようなものとなるということであれば、非適格分割によって固定資産を移転して未経過固定資産税相当額の金銭を受け取った分割法人の法人税法62条1項の規定による処理は、その固定資産の帳簿価額に相当する金額を譲渡原価の額とし、その固定資産の分割時の時価に相当する金額と未経過固定資産税相当額の金銭の合計額を譲渡収入の額とするものとなる。

 

ロ 分割承継法人の取扱い

ⅰ 固定資産の取得の処理

 分割承継法人が分割によって固定資産の移転を受けた場合には、その分割承継法人は、その固定資産の取得の処理をすることとなるが、これに関しては、分割法人の場合のように特別な法令の規定は設けられていない。しかし、法人税基本通達の第3節(固定資産の取得価額等)第1款(固定資産の取得価額)に細かな取扱いが示されており、7-3-16の2(減価償却資産以外の固定資産の取得価額)においては、次のように述べられている。

 

 「 減価償却資産以外の固定資産の取得価額については、別に定めるもののほか、令第54条《減価償却資産の取得価額》の規定及びこれに関する取扱いの例による。
 なお、資本的支出に相当する金額は当該固定資産の取得価額に加算する。」

 

 この通達に示されている法人税法施行令54条の1項の1号から6号までにおいては、減価償却資産の取得の方法に応じてその取得価額となる金額が定められているが、非適格分割によって分割承継法人が移転を受けた減価償却資産に関しては、1~5号に規定する方法以外の方法によって取得した減価償却資産の取得価額について定めた6号の規定によることとなり、同号において、「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」に「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」を加算した金額とされている。

 

 未経過固定資産税相当額の金銭がこの法人税法施行令54条1項6号に定めるものに該当するのか否かということが問題となるが、固定資産の通常の売買取引において慣行的に未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが行われているということであれば、上記の「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」に該当するということになると考えられる。

 

ⅱ 資本の部の処理

 分割承継法人は、固定資産の取得の処理を行うとともに、資本の部の処理も行う必要があるが、この資本の部の処理は、分割が非適格であるため、資本金等の額の異動のみであり、法人税法施行令8条(資本金等の額)の1項6号に掲げられた金額を増加させることとなる。

 

 ただし、未経過固定資産税相当額の金銭の有無等によってその取扱いや金額が変わることとはなっていないため、詳細の説明は省略することとする。

 

② 分社型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

 非適格の分社型分割の場合の分割法人における未経過固定資産税相当額の金銭の取扱いは、分割型分割と同様である。

 

ロ 分割承継法人の取扱い

ⅰ 固定資産の取得の処理

 非適格の分割型分割の場合の分割承継法人における固定資産の取得の処理は、分割型分割の場合と同様である。

 

ⅱ 資本の部の処理

 分割承継法人は、固定資産の取得の処理を行うとともに、資本の部の処理も行う必要があるが、この資本の部の処理は、分割が非適格であるため資本金等の額の異動のみであり、法人税法施行令8条1項7号に掲げられた金額を増加させることとなる。

 

 ただし、未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、一般の分割交付金と同様の取扱いとすることで済み、その他の特別な事情は生じないため、詳細の説明は省略することとする。

 

(2)適格分割の場合の取扱い

 適格分割の場合には、非適格分割の場合とは異なり、特例として、移転する資産等の譲渡損益の計上を繰り延べることとされているが、適格判定の検討において述べた未経過固定資産税相当額の金銭の特殊性(1(2)①)を考慮すると、適格判定と同様に、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いの部分を除いた部分についてのみ、特例の対象とするべきであると考えられる。

 

 そして、未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、非適格合併における取扱いと同様の取扱いとするのが適当と考えられる。
 詳細に関しては、次の①及び②に述べるとおりである。

 

① 分割型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

ⅰ 固定資産の引継ぎの処理

 法人税法62条の2(適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ)の2項においては、次のように定められている。

 

 「 内国法人が適格分割型分割により分割承継法人にその有する資産及び負債の移転をしたときは、前条第一項の規定にかかわらず、当該分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該適格分割型分割の直前の帳簿価額として政令で定める金額による引継ぎをしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」

 

 分割を行って未経過固定資産税相当額の金銭を受け取った分割法人がこの法人税法62条の2第2項の「分割承継法人にその有する資産及び負債の移転をしたとき」に該当していることは明らかであり、分割法人が分割によって固定資産を分割承継法人に移転した場合には、この法人税法62条の2第2項の規定の適用があることとなる。

 

 そして、この場合には、その固定資産の「適格分割型分割の直前の帳簿価額として政令で定める金額による引継ぎをしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する」とされているわけであるが、この「政令で定める金額」に関しては、法人税法施行令123条の3(適格合併及び適格分割型分割における合併法人等の資産及び負債の引継価額等)の2項において、次のように定められている。

 

「 法第六十二条の二第二項に規定する政令で定める金額は、同項の適格分割型分割に係る分割承継法人に移転をした資産及び負債の当該適格分割型分割の直前の帳簿価額とする。」

 

 すなわち、分割法人は固定資産を分割承継法人に帳簿価額で引き継ぐこととなるわけである。

 

 この「引継ぎ」という用語は、適格合併と適格分割型分割における資産及び負債の移転について、「譲渡」と「取得」ということではなく、被合併法人と分割法人が資産及び負債を保有している状態をそのまま合併法人と分割承継法人に承継させる概念として、平成13年度改正から用いられているものである。

 

 このため、法人税法62条の2においては、分割法人が適格分割型分割によって固定資産を分割承継法人に移転しても、その移転に伴い、益金の額や損金の額が生じて所得の金額が変わるといったことは予定されていない、ということになる。

 

ⅱ 分割承継法人株式の処理

 分割法人は、分割承継法人の株式等を受け取ってそれを株主に交付することとなるが、その分割承継法人の株式等を受け取る処理に関しては、法人税法62条の2第3項に次のような定めが設けられている。

 

 ただし、未経過固定資産税相当額の金銭の有無等によってその取扱いや金額が変わることとはなっていないため、本件に関しては、特に考慮する必要はなく、詳細の説明は省略することとする。

 

ⅲ 資本の部の処理

 分割法人は、固定資産の引継ぎの処理を行うとともに、資本の部の処理も行う必要があるが、これに関しては、法人税法施行令8条1項15号と9条1項10号において、資本金等の額の減少と利益積立金額の減少の定めが設けられている。

 

 ただし、これらに関しても、未経過固定資産税相当額の金銭の有無等によってその取扱いや金額が変わることとはなっていないため、詳細の説明は省略することとする。

 

ⅳ 適格分割型分割の場合の分割法人における未経過固定資産税相当額の金銭の取扱い

 上記ⅰからⅲまでにおいて述べたものに関しては、未経過固定資産税相当額の金銭の有無によって法令の規定の解釈が変わることはなく、未経過固定資産税相当額の金銭があることによる特別な取扱いを考慮する必要はないわけであるが、未経過固定資産税相当額の金銭をどのように取り扱うのかということになると、上記ⅰからⅲまでとはかなり事情が異なってくる。

 

 この未経過固定資産税相当額の金銭をどのように取り扱うべきかということを検討するに当たっては、次の2点を確認しておく必要がある。

 

(ⅰ)未経過固定資産税相当額の金銭は分割承継法人の株式に置き換えて捉えることができないこと

 上記の1(1)及び(2)②において述べたとおり、未経過固定資産税相当額の金銭には、1株未満の株式の代り金及び親法人株式等の端数の代り金と共通する部分があるが、しかし、これらとはまったく異なる部分も存在する。
 1株未満の株式の代り金及び親法人株式等の端数の代り金は、その内容に即して、一旦、合併法人の株式や分割承継法人の株式及び合併親法人株式に置き換えられ、その後、その置き換えられた株式を現金化したものとされており、その株式に置き換えられた状態で合併や分割に関する適格判定の規定や所得金額の計算の規定が適用されることとなる。このため、1株未満の株式の代り金及び親法人株式等の端数の代り金があったとしても、合併や分割に関する適格判定の規定や所得金額の計算の規定の解釈に当たって特別な検討が必要となるといったことはない。

 

 これに対して、未経過固定資産税相当額の金銭は、株式の「代り金」ではないため、1株未満の株式の代り金及び親法人株式等の端数の代り金とは異なり、株式に置き換え捉えることはできない(注)。

 

(注)これは、改めて言うまでもないが、未経過固定資産税相当額を株式として交付することができないということではない。組織再編成においては、未経過固定資産税相当額の金銭を交付する場合の税制の取扱いが明確でないため、未経過固定資産税相当額を交付する場合には、金銭ではなく、株式として交付せざるを得ない、という声が聞かれる。

 

(ⅱ)法人税法62条の2・62条の3の規定は、対価に金銭等が含まれることを予定していないということ

 法人税法2条の組織再編成の適格判定の規定は、わずかでも対価として金銭等が交付される場合には組織再編成を非適格とするという仕組みとなっているため、適格組織再編成に適用される62条の2や62条の3などの規定は、対価に金銭等が含まれることを予定して設けられてはいない。

 

 適格分割型分割において移転資産等を帳簿価額による引継ぎとする旨を定める法人税法62条の2第1項の規定は、対価に金銭等が含まれていないということを前提として設けられているわけである(注)。

 

(注)立法論としては、対価に金銭等が含まれている場合であっても、その金銭等が小額であったり対価の総額に占める割合が低かったりしたときにその金銭等以外の部分に対応する移転資産等を帳簿価額によって引き継ぐといった仕組みとすることも考えられる。    

 

 平成11年度改正により創設されて18年度改正において法人税法に組み入れられた株式交換又は株式移転に係る課税の特例(平成11年度の創設時は措法67の9の2~67の9の4、平成18年度の廃止時は措法67の9・67の10)においては、対価の5%未満が金銭等となっている株式交換又は株式移転であっても、課税の繰り延べの対象とすることとし、その金銭等の額に相当する部分については譲渡益が計上される仕組みとされていた。

 

 諸外国の例を見ても、対価の一部が金銭等となっている場合であっても課税を繰り延べる仕組みとしているものが見受けられるところであり、我が国の組織再編成税制においても、将来的には、このような柔軟性のある仕組みとすることを検討してよいと考える。

 

 上記(ⅰ)及び(ⅱ)からすると、法人税法62条の2の規定をそのまま文理解釈することにより、未経過固定資産税相当額の金銭の取扱いに関する答えを導き出すことはできない、と言わざるを得ない。

 

 そうなると、この未経過固定資産税相当額の金銭の受払いに関しては、分割と切り離して別の取引とし、法人税法22条の規定を適用することとするべきではないかという意見も生じてくることが有り得ると考えられる。

 

 しかし、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが分割の中の取引であるのか、あるいは、分割とは別の取引であるのかということは、法令の解釈の領域の問題ではなく、事実の領域の問題であり、そのまま当てはまる法令の規定がないということをもって事実をゆがめるといったことは、本末転倒であり、採り得ない。仮に、分割と未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが別の取引であるとすれば、この後者は、単なる金銭の授受となり、一方から他方への寄附と受贈があるということとならざるを得ないが、実際には、この未経過固定資産税相当額の金銭の受払いは、分割による固定資産の移転と離れて存在し得るものではない。形式上、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いを分割と分けることによって対価性のある取引が対価性のない取引になるといったことはない。周知のとおり、法人税制においては、寄附金に該当するのか否かは、形式ではなく、内容を見て判断するものとされている。

 

 また、同じ内容の分割について、形式を変えることによって適格とすることも非適格とすることもできるということになると、租税回避を容認する取扱いを作り出す結果となってしまいかねないことにも留意する必要がある。一般に、組織再編成においては、本来は一体のものを別の行為としたり、本来は別の行為を一つにしたりすることにより、課税関係を操作し、租税回避を図るといったことが行われることがあり、形式と内容を一致させるという観点は、非常に重要となる。

 

 要するに、あくまでも、事実は正しく認識した上で、法令をどのように解釈し、どのように当てはめるのかということを考えることが必要となるわけである。税制上の取扱いの検討は、例えて言えば、足に合う靴を作る作業であり、足にぴったりと合う靴を作ることが出来ずに、靴に足を合わせろという話をするとすれば、それは本末転倒ということにならざるを得ない。

 

 租税法の立法も、経済活動として行われる行為のすべてを知り尽くした上でなされるわけではなく、特に、特殊な取引の取扱いは、法令の規定の文言から読み取ることができなかったり、あるいは、法令の規定の文言どおりとすると適切でない結果となったりすることがある。未経過固定資産税相当額の金銭の取扱いも、適格分割の取扱いとして定められているものからはみ出す部分をどのように捉えてどのように処理するのが最も適切な取扱いとなるのかという問題ということになる。

 

 このように、この未経過固定資産税相当額の金銭の取扱いに関しては、法令の規定の文言を読んでそこから適切な取扱いを導き出そうとしても困難であるわけであるが、このような場合には、そもそも非適格組織再編成と適格組織再編成の取扱いの基本的な考え方がどのようなものとなっているのかという基本に立ち返って、検討を行うほかない。

 

 平成13年度改正で創設された我が国の組織再編成税制は、諸外国のそれとは異なり、組織再編成において、共通して問題となり、しかも、最も重要である法人間の移転資産等の譲渡損益をどのように取り扱うのかということを中心に据えて構築したものとなっている(注)。

 

(注)「 このように、組織再編成に係る税制を考える上で中心となる問題を移転資産の譲渡損益の計上の要否と考え、この視点から組織再編成の全体を観て、税制上の取扱いについて検討が行われたわけです。」(朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』(日本租税研究協会、平成13年)25頁)

 

 このため、組織再編成において法人間で資産等を移転する場合には、まず、すべてについて譲渡損益を計上させることとし、特例に該当するものについてのみ、譲渡損益の計上を繰り延べさせることとする、ということになっているわけであり、これが法人税法62条と62条の2等に定められているわけである。

 

 このような組織再編成税制の基本的な考え方と構造からすると、分割の一部となっている未経過固定資産税相当額の金銭について、分割が非適格の場合には組織再編成の原則どおりの取扱いとしながら、分割が適格となる場合には組織再編成の取扱いの対象外とするという結論とはならない、と考えられる。

 

 このような点からすれば、結論としては、自ずと、適格分割として法人税法62条の2の規定を適用するものの、同条の規定の文言からは直接読み取ることができない未経過固定資産税相当額の金銭については、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うこととするのが適当である、ということになるものと考えられる。

 

 そして、この場合には、分割法人が分割承継法人から受け取る未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、非適格分割の場合と同様に、譲渡益を計上するべきである、という結論となることになる。

 

 このことは、未経過固定資産税相当額の金銭の受払いに対して法人税法62条1項の規定を適用するということではない。未経過固定資産税相当額の金銭の受払いを含めた分割型分割の全体に対しては法人税法62条の2の規定を適用しつつ、この未経過固定資産税相当額の金銭の受払いの部分については62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うこととする、というものである。

 

 このように、適格分割として法人税法62条の2の規定を適用しながら、未経過固定資産税相当額の金銭について非適格分割の場合と同様の取扱いとするということになれば、結果的には、一つの分割について適格としての取扱いと非適格としての取扱いをするという特殊な状態が生ずることとなるが、これは、固定資産の移転に際してはその本体の取引に付随して未経過固定資産税相当額の金銭を受け払いすることとされていることに由来するものである。

 

 この未経過固定資産税相当額の金銭の取扱いに関しては、常に金銭で精算される付随的な対価は常に原則的な取扱いとする、というように捉えてもよかろう。

 

 ところで、少し視点を変えて、資産の譲渡に際して対価の全部又は一部が金銭等によって精算された場合について考えてみると、別途、譲渡損益を繰り延べる勘定を設けるといった特別な措置を講じない限り、その金銭等によって精算された部分に関しては、爾後に課税の取戻しを行うことが困難となることが分かる。

 

 また、金銭で精算される部分について譲渡益とする取扱いは、固定資産の通常の売買取引や非適格分割の取扱いとの整合性が保たれることとなるものであることも確認することができる。

 

 これに加えて、仮に、平成13年の組織再編成税制の創設時に、分割に際して未経過固定資産税相当額の金銭の受払いが行われることがあるということが明らかになっていたとしたら、上記の取扱いと同様の取扱いとなるように手当てが講じられていたものと考えられるということも、付言しておいてよかろう。

 

 このような点からしても、上記の結論には妥当性があると言ってよいと考える。

 

(備考)過去の借地権の取扱いやリースの取扱いなどが典型例であるが、現在も、法令の規定の文言から直接にその取扱いを導き出すことが出来ないものがいくつか存在しており、そのようなものについては、必要に応じて、通達や質疑応答事例などにおいて、適切な取扱いを示すこととされている。

 この未経過固定資産税相当額の金銭の取扱いに関しても、そのような対応が考慮されてもよいと思われる。

 また、現行の組織再編成税制は、制度を複雑なものとしなくて済むようにするとの観点から、1円でも金銭を交付すれば非適格となるという仕組みとされているわけであるが、現在、制度創設から10年が経ち、既に制度も定着してきたと言ってよい状況にあると考えられるため、諸外国と同様に、少額の金銭等の交付を行う場合にも、適格として課税の特例の対象とする、ということも検討課題となると考えられる。

 例えば、アメリカの場合には、20%の範囲内であれば特例の対象とするとされているわけであるが、このような仕組みとすることは、少額の金銭等によって原則と特例のいずれかを選択することができるという状態を是正することともなるわけで、現状のいわゆる適格外しを抑制する効果が期待できるものである。もちろん、未経過固定資産税相当額の金銭は、金額自体が相対的に少額となるため、このような仕組みとなった場合には、その金銭等の許容範囲の中に納まることとなるはずである。

 

ロ 分割承継法人の取扱い

ⅰ 固定資産の引継ぎを受ける処理

 分割承継法人が適格分割型分割によって資産等の移転を受けた場合の処理に関しては、法人税法施行令123条3第4項において、次のように定められている。

 

 「 法第六十二条の二第一項又は第二項に規定するときにおいては、これらの規定の合併法人又は分割承継法人は、これらの規定に規定する資産及び負債のこれらの規定に規定する帳簿価額(省略)による引継ぎを受けたものとする。」

 

 分割承継法人が適格分割型分割によって固定資産の移転を受けた場合には、この法人税法施行令123条の3第4項の規定の適用を受けることとなる。

 

 しかし、この法人税法施行令123条の3第4項の規定から分かるとおり、分割承継法人は、適格分割型分割によって分割法人から資産の引継ぎを受けた場合には、分割法人における帳簿価額をそのままその帳簿価額とすることとされているため、適格分割型分割によって分割承継法人が引継ぎを受けた固定資産に関して未経過固定資産税相当額の金銭を支払った場合には、この未経過固定資産税相当額の金銭に対し、法人税法施行令123条の3第4項の規定をそのまま適用するというわけにはいかない。

 

 これに関しては、下記ⅲにおいて述べるとおり、分割承継法人においても、この未経過固定資産税相当額の金銭について、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うこととし、非適格分割の場合と同様とするのが適当と考えられる。しかし、非適格分割の場合の資産は、分割法人からの時価による取得とされており、「引継ぎ」という考え方は採られていないため、未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、分割により、その未経過固定資産税相当額の金銭の受払いの基因となった固定資産の一部を追加取得するものとするのが適当と考えられる。

 

ⅱ 資本の部の処理

 適格分割型分割の場合には、分割承継法人は、資本金等の額につき、法人税法施行令8条1項6号に掲げられた金額を増加させることとなる。

 

 ただし、未経過固定資産税相当額の金銭の有無等によって取扱いが変わることとはならないため、詳細の説明は省略することとする。

 

ⅲ 適格分割型分割の場合の分割承継法人における未経過固定資産税相当額の金銭の取扱い

 適格分割型分割において、分割承継法人が分割法人に未経過固定資産税相当額の金銭を支払った場合には、上記イⅳにおいて述べたところと同じ理由により、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うのが適当であり、分割承継法人が支払った未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、非適格分割の場合と同様に、資産の取得価額とするべきであると考えられる。

 

 ただし、非適格分割の場合の資産は、分割法人からの時価による取得とされており、「引継ぎ」という考え方は採られていないため、未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、分割により、その未経過固定資産税相当額の金銭の受払いの基因となった固定資産の一部を追加取得するものとするのが適当と考えられる。

 

② 分社型分割における取扱い

イ 分割法人の取扱い

ⅰ 固定資産の譲渡の処理

 適格分社型分割の場合には、分割法人は、次のとおり、法人税法62条の3(適格分社型分割による資産等の帳簿価額による譲渡)の1項において、資産及び負債を帳簿価額により譲渡したものとする処理を行なうこととされている。

 

 「 内国法人が適格分社型分割により分割承継法人にその有する資産及び負債の移転をしたときは、第六十二条第一項(合併及び分割による資産等の時価による譲渡)の規定にかかわらず、当該分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該適格分社型分割の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」

 

 しかし、分割法人が金銭で受け取った未経過固定資産税相当額に関しては、この法人税法62条の3第1項の規定をそのまま適用することはできない。

 

 この未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、下記ⅲにおいて述べるとおり、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うのが適当であり、非適格分割の場合と同様に、譲渡益を計上するべきであると考えられる。

 

ⅱ 分割承継法人株式の処理

 適格分社型分割の場合に、分割法人が交付を受けた分割承継法人の株式等の処理に関しては、法人税法施行令119条(有価証券の取得価額)の1項7号に定めが設けられている。

 

 ただし、未経過固定資産税相当額の金銭の有無等によって取扱いが変わることとはならないため、詳細の説明は省略することとする。

 

ⅲ 適格分社型分割の場合の分割法人における未経過固定資産税相当額の金銭の取扱い

 適格分社型分割の場合に、分割法人が分割承継法人から受け取った未経過固定資産税相当額の金銭をどのように取り扱うべきかということが問題となるが、これに関しては、上記①イⅳにおいて述べたところと同じ理由により、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うのが適当であり、分割承継法人が支払った未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、非適格分割の場合と同様に、譲渡益を計上するべきであると考えられる。

 

ロ 分割承継法人の取扱い

ⅰ 固定資産の取得の処理

 分割承継法人が適格分社型分割によって固定資産の移転を受けた場合の処理に関しては、法人税法施行令123条の4(適格分社型分割における分割承継法人の資産及び負債の取得価額)において、それぞれ次のように定められている。

 

 「 法第六十二条の三第一項(適格分社型分割による資産等の帳簿価額による譲渡)に規定するときにおいては、同項の分割承継法人の同項に規定する資産及び負債の取得価額は、同項に規定する帳簿価額に相当する金額(その取得のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)とする。」

 

 分割承継法人が適格分社型分割によって固定資産の移転を受けた場合には、この法人税法施行令123条の4の規定を適用し、分割法人における帳簿価額に相当する金額によってその資産を取得したものとすることになる。

 

 しかし、分割承継法人がその帳簿価額による譲渡を受けた固定資産に関して支払った未経過固定資産税相当額の金銭に対しては、この法人税法施行令123条の4の規定をそのまま適用することはできない。

 

 この未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、上記①イⅳにおいて述べたところと同じ理由により、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うこととし、その未経過固定資産税相当額の金銭の受払いの基因となった固定資産の一部を追加取得するものとするのが適当と考えられる。

 

ⅱ 資本の部の処理

 分割承継法人における資本の部の処理は、分割が分社型であるため資本金等の額の異動のみであり、法人税法施行令8条1項7号に掲げられた金額を増加させることとなる。

 

 ただし、未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、一般の分割交付金と同様の取扱いとすることで済み、その他の特別な事情は生じないため、詳細の説明は省略することとする。

 

ⅲ 適格分社型分割の場合の分割承継法人における未経過固定資産税相当額の金銭の取扱い

 適格分社型分割において、分割承継法人が分割法人に未経過固定資産税相当額の金銭を支払った場合には、上記①ロⅲの場合と同様に、分割によって資産等を移転する場合の原則を定めた法人税法62条1項の規定の取扱いに準じて取り扱うのが適当であり、分割承継法人が支払った未経過固定資産税相当額の金銭に関しては、その未経過固定資産税相当額の金銭の受払いの基因となった固定資産の一部を追加取得するものとするのが適当と考えられる。

 

(3)未経過固定資産税相当額の金銭の受払いがある場合の分割の取扱いの一覧

 上記(1)及び(2)の未経過固定資産税相当額の金銭の受払いがある場合の分割の取扱いを一覧にして示すと、次の表のとおりとなる。

 

【表】未経過固定資産税相当額の金銭の受払いがある場合の分割の取扱い

注1 分割によって移転する資産(固定資産)の分割法人における帳簿価額は100、未経過固定資産税相当額10、その資産の時価は130(未経過固定資産税相当額10を含む)としている。

2 適格分割型分割における資本金等と利益積立金の増減は、適宜の金額としている。

3 分割型分割の場合の分割法人と株主との間の取引に関しては、記載を省略している。