Q&A

組織再編税制

 

被合併法人の繰越欠損金の引継ぎ否認金額と合併法人の特定
資産譲渡等損失額の関係

※T&Amaster(ロータス21)2016.09.19  No.659に掲載

  A社は、2年前に全株式を購入して100%子会社としたB社を当該事業年度に吸収合併し、税制上、適格合併の要件に該当することから、適格合併として処理する予定としています。

 

  B社には、A社が株式を購入した日の属するB社の事業年度前の事業年度における繰越欠損金はありませんが、B社は、同日の属する事業年度の前事業年度終了の時には、大きな含み損を有する状態(簿価純資産価額が時価純資産価額よりも大きく簿価純資産超過額がある状態)となっていました。

 

  このため、合併直前のB社の最後事業年度においては、従前から保有していた含み損のある資産を譲渡することによって損失が生ずるとともに事業不振によって損失等が生じて欠損金が発生しており、合併後のA社の当該事業年度(合併事業年度)においては、全体として事業利益は得られているものの、B社から帳簿価額によって引継ぎを受けた資産を譲渡することによって損失が生じています。

 

  この場合、A社の合併事業年度においては、原則として、B社の最後事業年度の欠損金で資産の譲渡による損失の額に相当する金額(特定資産譲渡等損失相当額)の全額の引継ぎが否認されるとともに、B社から帳簿価額によって引継ぎを受けた資産を譲渡することによって生じた損失の額の全額の損金算入が否認されることになるものと考えています。

 

  ただし、この合併事業年度の上記の損失の額の損金算入の否認に関しては、本件のケースのように被合併法人の時価純資産価額が簿価純資産価額に満たない場合の取扱いについて、法人税法施行令123条の9第1項2号(特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例)に特例が設けられており、同号イにおいては、被合併法人の含み損(簿価純資産超過額)が同112条5項1号(特定資産譲渡等損失額となる金額に達するまでの金額)の特定資産譲渡等損失相当額の繰越欠損金の金額に満たない場合にその満たない部分の繰越欠損金の金額を合併法人に引き継ぐことができると規定している同113条1項3号(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)が適用されることを前提として(注)、合併事業年度に損金算入が否認されることとなる上記の損失の額から合併法人に繰越欠損金として引き継ぐことが出来なかった同112条5項1号の特定資産譲渡等損失相当額を控除することができる、とされています。

 

  (注)法人税法施行令123条の9第1項2号イにおいては、「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合に同項第3号ロの規定において第112条第5項第1号(特定資産譲渡等損失相当額から成る欠損金額の算定)に掲げる金額とみなした金額」と規定されています。

 

  しかし、本件のケースにおいては、B社の含み損(簿価純資産超過額)が法人税法施行令112条5項1号の特定資産譲渡等損失相当額の繰越欠損金の金額を超える大きな額となっているため、B社の繰越欠損金の引継ぎに関しては、同113条1項3号が適用されず、特定資産譲渡等損失相当額の繰越欠損金の全額の引継ぎが否認されることとなります。

 

  要するに、本件のケースは、法人税法施行令123条の9第1項2号イの金額が無いこととなり、その結果、B社の特定資産譲渡等損失相当額の繰越欠損金の引継ぎの否認という形でB社の含み損相当額に課税が行われた上に、さらに、特定資産譲渡等損失額の損金算入の否認という形でB社の含み損相当額に課税が行われる、ということになってしまうわけです。

 

  この法人税法施行令123条の9第1項2号イの「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合」という部分は、実際に法人税法施行令113条1項の適用を受けた場合のみと解釈する他ないのでしょうか。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

  法人税法施行令123条の9第1項2号イの「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合」という部分は、実際に同113条1項の規定の適用を受けた場合だけでなく、同項の規定の適用を受けたとした場合を含み、同号イに掲げる金額は、同項の規定の適用を受けたとした場合に同112条5項1号の特定資産譲渡等損失相当額とみなす金額の合計額と解釈するのが適当であると考える。

 

1.問題点の確認

 

  問題点がやや分かりにくいことから、最初に、その確認をしておくこととする。

 

  本件は、親会社が発行済株式の100%を保有する子会社を吸収合併するという完全支配関係法人間の適格合併を行ったものであり、被合併法人となる子会社には、繰越欠損金と含み損とがある。

 

  適格合併においては、本来、被合併法人の税制上の取扱いは全てそのまま合併法人に引き継がれるべきであるが、適格合併において、常に全てをそのような取扱いとするということになると、自ずと、繰越欠損金や含み損を有する法人の株式の購入等を行い、適格要件の緩やかな100%グループ内の法人間の適格合併や50%超100%未満のグループ内の適格合併を行って、その繰越欠損金や含み損により法人税の負担を減少させようとするものが生じてくることとなる。

 

  このため、100%グループ内の法人間の適格合併や50%超100%未満のグループ内の適格合併においては、一定のものについて、被合併法人の繰越欠損金の合併法人への引継ぎの制限の措置(法法57③)と被合併法人の資産の含み損を合併法人において譲渡等によって実現させた場合の損失の額の損金算入の否認の措置(法法62の7)とが講じられている。

 

  すなわち、100%グループ内の法人間の適格合併や50%超100%未満のグループ内の適格合併においては、合併法人の合併事業年度開始の日の5年前の日後に合併法人と被合併法人との間に支配関係が生じている場合で、みなし共同事業要件を満たすことができないときは、基本的には、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継いで控除することができず、また、被合併法人の資産の含み損を合併法人に引き継いで計上した損失の額についても損金に算入することができない。

 

  この合併法人に引き継いで控除することができない被合併法人の繰越欠損金は、支配関係事業年度(支配関係が生じた日の属する事業年度をいう。以下、同じ。)前の事業年度のものと支配関係事業年度から最後事業年度までの間の事業年度のものとに分けられるが、原則として、前者の繰越欠損金についてはその全額の引継ぎが否認され(法法57③一)、また、後者の繰越欠損金については資産の譲渡等によって生じた損失の額に相当する金額(特定資産譲渡等損失相当額)のみの引継ぎが否認される(同二)。

 

  本件においては、この後者の被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金(最後事業年度の欠損金)のみが存在することとなっており、この内の特定資産譲渡等損失相当額が合併法人への引継ぎの否認の対象とされることとなる。

 

  また、この被合併法人の資産の含み損を合併法人に引き継いで譲渡等により実現させた損失の額(特定資産譲渡等損失額)は、合併法人の合併事業年度以後の事業年度において発生することとなり、合併事業年度開始の日以後3年を経過する日等までの期間のものを損金不算入とすることとされている(法法62の7①・②一)。

 

  要するに、資産に含み損のある法人の株式を取得してその含み損を使って合併法人の税負担を減少させることを認めないという観点に立ち、その資産の含み損が譲渡等により実現して繰越欠損金に化体している部分の合併法人への引継ぎを否認するとともに、その資産の含み損が合併法人に引き継がれて譲渡等により損失の額となった部分の損金算入を否認する、という仕組みとなっているわけである。

 

  このような仕組みは、資産に含み損のある法人の株式を取得してその含み損を使って合併法人の税負担を減少させる租税回避を防止するための有効な対策となる。

 

  しかし、このような被合併法人の個々の資産の含み損だけに着目した仕組みは、被合併法人の資産及び負債の全体の含み損益を考慮しないことにより、本来は租税回避でないものに対してまで、資産の含み損を使った租税回避と捉えて、被合併法人の繰越欠損金の引継ぎを否認したり、資産の譲渡等による損失の額の損金算入を否認したりすることとなってしまうことが有り得る。

 

  このため、被合併法人の繰越欠損金の引継ぎの制限と資産の譲渡等による損失の額の損金算入の否認のいずれに関しても、被合併法人の資産及び負債の全体の含み損益の額を考慮して、取扱いを緩和する特例措置が講じられている。

 

  この特例措置は、被合併法人の繰越欠損金の引継ぎの制限に関しては、「引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例」と題して法人税法施行令113条に設けられており、被合併法人から合併法人に引き継がれた資産の譲渡等による損失の額の損金算入の否認に関しては、「特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例」と題して同123条の9に設けられている。

 

  法人税法施行令113条1項においては、後に2において述べるとおり、被合併法人の支配関係事業年度前の事業年度の繰越欠損金について、被合併法人の資産及び負債の全体を見た場合に含み益(時価純資産超過額)があれば、その時価純資産超過額に相当する金額の引継ぎを否認しないことができるようにし、かつ、被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金について、その金額の引継ぎを否認しないことができるようにするとともに、被合併法人の資産及び負債の全体を見た場合に含み損(簿価純資産超過額)があれば、被合併法人の支配関係事業年度前の事業年度の繰越欠損金については、その全額の引継ぎを否認するものの、支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金については、その簿価純資産超過額に相当する金額の引継ぎのみを否認することができるようにして、被合併法人の繰越欠損金が合併法人に引き継がれることを利用した租税回避に対してできるだけ過不足のない金額の損金算入を否認して対処する、という考え方が採られている。

 

  このような被合併法人の繰越欠損金の引継ぎに関する特例の考え方を踏まえれば、被合併法人から引き継いだ資産の特定資産譲渡等損失額の損金不算入に関する特例の考え方と仕組みは、本来は、被合併法人の簿価純資産超過額について、支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金の引継ぎの否認と特定資産譲渡等損失額の損金算入の否認とによって過不足のない金額の損金算入を否認して対処するという考え方を採ることとして、被合併法人に時価純資産超過額がある場合には、被合併法人から引継ぎを受けた資産の譲渡等による損失の額の損金算入を否認しない仕組みとしつつ、被合併法人に簿価純資産超過額がある場合には、当該損失の額について、簿価純資産超過額から合併法人への引継ぎを否認された支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金の金額(特定資産譲渡等損失相当額の繰越欠損金の金額)を控除した残額に達するまでの金額の損金算入を否認する仕組みとするべきである、と考えられる。

 

  しかし、この法人税法施行令123条の9第1項においては、被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時に時価純資産超過額がある場合(同項1号)には、上記の本来のあるべき姿となっているものの、被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時に簿価純資産超過額がある場合(同項2号)に関しては、同項2号イの規定を文言どおりに解するとすれば、上記の本来のあるべき姿とは異なる結果となってしまうという疑問点がある。

 

  この法人税法施行令123条の9第1項は、次のとおりとなっている。 

 

(特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例)

 

第123条の9 法第62条の7第1項(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)に規定する特定適格組織再編成等(以下この条において「特定適格組織再編成等」という。)に係る合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人である内国法人は、同項に規定する特定組織再編成事業年度(以下この条において「特定組織再編成事業年度」という。)以後の各事業年度(同項に規定する適用期間(以下この条において「適用期間」という。)内の日の属する事業年度に限る。)における当該適用期間内の特定引継資産に係る法第62条の7第2項に規定する特定資産譲渡等損失額(以下この条において「特定資産譲渡等損失額」という。)は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定めるところによることができる。

 

  一 法第62条の7第1項に規定する支配関係法人(以下第6項までにおいて「支配関係法人」という。)の支配関係事業年度(当該支配関係法人と当該内国法人との間に最後に支配関係があることとなつた日の属する事業年度をいう。次号において同じ。)の前事業年度終了の時における時価純資産価額(その有する資産の価額の合計額からその有する負債(新株予約権に係る義務を含む。以下この号において同じ。)の価額の合計額を減算した金額をいう。次号及び次項において同じ。)が簿価純資産価額(その有する資産の帳簿価額の合計額からその有する負債の帳簿価額の合計額を減算した金額をいう。次号において同じ。)以上である場合 当該適用期間内の当該特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額は、ないものとする。

 

  二 当該支配関係法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時における時価純資産価額が簿価純資産価額に満たない場合 適用期間内の日の属する事業年度における当該事業年度の適用期間の特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額は、当該特定資産譲渡等損失額のうち、その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額に達するまでの金額とする。

 

  イ 当該内国法人が当該支配関係法人に係る法第57条第3項各号(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)に掲げる欠損金額につき第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合に同項第3号ロの規定において第112条第5項第1号(特定資産譲渡等損失相当額から成る欠損金額の算定)に掲げる金額とみなした金額の合計額

 

  ロ 当該事業年度前の適用期間内の日の属する各事業年度の特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額の合計額

 

  この法人税法施行令123条の9第1項2号イを文言どおりに解釈すれば、被合併法人の繰越欠損金の合併法人への引継ぎの制限(法法57③)に関する特例である同113条1項3号ロの規定の適用を受けずに被合併法人の繰越欠損金の合併法人への引継ぎが否認された場合(注1)には、同123条の9第1項2号イの金額が無いこととなって、被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金のうち特定資産譲渡等損失相当額の全額の引継ぎが否認され、合併法人への引継ぎが否認される被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金の金額と合併法人において特定資産譲渡等損失額として損金算入が否認される損失の額との合計額が被合併法人の簿価純資産超過額を超える状態となってしまうことがある。

 

  (注1)本来は、法人税法施行令113条1項の特例の適用を受けることができるにもかかわらず、同条2項の手続きを失念して適用を受けることができない場合、被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時に簿価純資産超過額があってその簿価純資産超過額が大きいために同項3号の要件を満たすことができず、同号の適用を受けることができない本件のケースのような場合などがこれに該当することとなる。

 

  本件は、被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時の簿価純資産超過額がある場合で、かつ、当該簿価純資産超過額が被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度に生じた欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額以上であるため、法人税法施行令113条1項1号及び2号(いずれも時価純資産超過額がある場合の特例)はもとより、同項3号(簿価純資産超過額があり、かつ、当該簿価純資産超過額が特定資産譲渡等損失相当額の合計額に満たない場合の特例)も適用されず、法人税法57条3項によって被合併法人の繰越欠損金のうち特定資産譲渡等損失相当額の全額の合併法人への引継ぎが否認されるケースである。

 

  本件のケースについて、任意の金額を用いて概要を示すと、表1のとおりとなる。

 

  【表1】

 

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  本件の質問は、表1の数値を用いて示すと、「A社での損金算入が否認される損失の額」が60ではなく40(100-60)となって、繰越欠損金の引継ぎ否認額と損失の額の損金算入否認額の合計額である120が簿価純資産超過額である100に止まるべきではないか、という問題意識に基づき、法人税法施行令123条の9第1項2号イの解釈を問うものとなっているわけである(注2)。

 

  (注2)法人税法施行令123条の9第1項2号ロにおいては、上記引用のとおり、「当該事業年度前の適用期間内の日の属する各事業年度の特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額の合計額」を控除して特定資産譲渡等損失額を算出することとされていることから、上記の表の「B社の最後事業年度」の特定資産譲渡等損失相当額60と「A社の合併事業年度」の特定引継資産譲渡等損失額60とがそれぞれ1期遅れて「A社の合併事業年度」と「A社の合併事業年度の翌事業年度」とに計上されていたとしたら「A社の合併事業年度」と「A社の合併事業年度の翌事業年度」において特定資産譲渡等損失額として損金算入が否認される金額は、それぞれ60と40(100-60)となり、合計額は120ではなく100となる。

 

  このような法人税法施行令123条の9第1項2号ロの取扱いからも、同号イの解釈に関して、本件の質問における疑問と同じ疑問が生じてくるはずである。

 

2.被合併法人の支配関係事業年度以後の繰越欠損金の取扱いの概要

 

  100%グループ内の法人間の適格合併や50%超100%未満のグループ内の適格合併において、合併法人の合併事業年度開始の日の5年前の日後に合併法人と被合併法人との間に支配関係が生じている場合で、みなし共同事業要件を満たすことができないときに、被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度の繰越欠損金の合併法人への引継ぎの取扱いがどうなるのかということについて、概要をまとめてみると、表2のとおりとなる。

 

  【表2】

 

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  本件は、表2の網掛けの部分に該当するケースであり、被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度の欠損金で特定資産譲渡等損失相当額から成るものの全額が合併法人への引継ぎの否認の対象となる。

  表2の法人税法施行令113条1項の特例は、平成13年の組織再編成税制の創設時の次の解説にあるように、支配関係事業年度の前事業年度終了の時に有する資産及び負債について「時価評価を行う場合」の特例となっている。

 

  「 上記(ロ)の制限又は(ハ)の制限の対象となる欠損金額がある法人の特定資本関係事業年度の前事業年度終了の時に有する資産及び負債について時価評価を行う場合には、その時価評価の状況に応じて上記(ロ)の制限又は(ハ)の制限を受ける金額をその時価評価を基礎として計算した金額とすることができることとされています(法令113)。」(『平成13年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)206頁)

 

  このため、被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時に資産及び負債の時価評価を行って簿価純資産超過額があるということになっている上記の表の網掛けの部分は、一応、「特例」ということにはなるが、簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後の各事業年度において生じた欠損金の内の特定資産譲渡等損失相当額の合計額以上となっていることから、支配関係事業年度以後の各事業年度の欠損金で特定資産譲渡等損失相当額から成るものの全額の引継ぎを不可とするのが適当であり、この処理は、結果的には、「原則」と同じものであるため、「原則」の規定を適用して処理することとされているものである。

 

  換言すれば、表2の網掛けの部分については、その処理が「原則」の処理と同じものとなってはいるが、「時価評価を行う場合」に該当するのか否かという点では、「特例」に含まれ、「原則」とは異なる、と捉えることができるわけである。

 

  なお、法人税法施行令113条1項3号の規定は、表3のとおりとなっている。

 

  【表3】

 

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3.法人税法施行令123条の9第1項2号イの解釈の検討

 

  本件の質問は、法人税法施行令123条の9第1項2号イの解釈に関するものであるが、上記1において引用したとおり、同号においては、「当該特定資産譲渡等損失額のうち、その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額に達するまでの金額とする。」とした上で、イの規定を設けている。

 

  法令の規定において、このように「・・・から・・・を控除した金額」という定め方をする場合には、基本的には、前者の金額が後者の金額よりも大きいという関係となっている。

 

  すなわち、上記のような定め方から判断すれば、基本的には、立法時に「その満たない部分の金額」は「イ及びロに掲げる金額の合計額」よりも大きいと認識されていた、と考えてもよいわけである。もちろん、これらの金額の大小が逆転することがないということではないが、これらの金額の大小が逆転していたりこれらの金額が同額であったりするのが常態であるということであれば、上記のような定め方とされることはない、と考えてよい。

 

  このような租税立法の常識を踏まえた上で、法人税法施行令123条の9第1項2号イの解釈を考えてみよう。

 

  まず、法人税法施行令123条の9第1項2号イに定められている「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合に同項第3号ロの規定において第112条第5項第1号(特定資産譲渡等損失相当額から成る欠損金額の算定)に掲げる金額とみなした金額」という部分について、実際に法人税法施行令113条1項3号ロの規定の適用を受けた場合のみの金額を指すと解して、「その満たない部分の金額」と「イ及びロに掲げる金額の合計額」とがどのような関係となっているのかということを確認してみることとする。

 

  上記2において引用したとおり、法人税法施行令113条1項3号は、同号の「当該満たない金額」(簿価純資産超過額)が「特定資産譲渡等損失相当額」の合計額に満たない場合に適用される特例とされているため、同号が適用されるケースにおいては、支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金で「特定資産譲渡等損失相当額」から成るものの合計額が支配関係事業年度の前事業年度終了の時の簿価純資産超過額である「当該満たない金額」よりも大きい状態となっている。

 

  このような状態において、法人税法施行令123条の9第1項2号の「その満たない部分の金額」と「イ及びロに掲げる金額の合計額」とはどのような関係となっているのであろうか。

 

  法人税法施行令123条の9第1項2号の「その満たない部分の金額」と同113条1項3号の「当該満たない金額」とは、表現の仕方は完全に同じものとはなっていないが、いずれも支配関係事業年度の前事業年度終了の時の時価純資産価額が簿価純資産価額に満たない場合におけるその満たない金額(簿価純資産超過額)を指しているため、同じものと考えてよい。

 

  法人税法施行令123条の9第1項2号イの金額は、同113条1項3号ロにおいて同112条5項1号に掲げる金額とみなした金額の合計額となるが、当該みなした金額がどのような金額であるのかということを確認してみると、同113条1項3号ロにおいては「当該簿価純資産超過額に相当する金額が当該各事業年度における特定資産譲渡等損失相当額のうち最も古いものから順次成るものとした場合に当該事業年度における特定資産譲渡等損失相当額のうち当該簿価純資産超過額に相当する金額を構成するものとされた部分に相当する金額」ということになっている。

 

  すなわち、法人税法施行令123条の9第1項2号イの金額は、簿価純資産超過額に相当する金額が支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額に満たない場面において、各事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額から成る当該簿価純資産超過額に相当する金額を合計した金額となるわけである。この法人税法施行令123条の9第1項2号イの金額は、簿価純資産超過額に相当する金額が支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額に満たない場面における金額であることから、当該金額は、常に、当該簿価純資産超過額に相当する金額と同額になることとなる。

 

  要するに、この法人税法施行令123条の9第1項2号イの金額は、同号の「その満たない部分の金額」と常に同額となり、上記の「その満たない部分の金額」と「イ及びロに掲げる金額の合計額」とは、前者が後者と同額(同号ロの金額がない場合)か又は前者が後者よりも小さい(同号ロの金額がある場合)という関係にあるわけである。

 

  上記の「その満たない部分の金額」と「イ及びロに掲げる金額の合計額」とがこのような関係にあるということであれば、租税立法の常識からして、「その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額」というような定め方とはならず、「当該特定資産譲渡等損失額のうち、その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額に達するまでの金額とする。」という部分は、「当該特定資産譲渡等損失額は、ないものとする。」等の定め方とすることになるはずである。

 

  換言すれば、法人税法施行令123条の9第1項2号の創設時には、同号イに定められている「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合に同項第3号ロの規定において第112条第5項第1号(特定資産譲渡等損失相当額から成る欠損金額の算定)に掲げる金額とみなした金額」という部分について、実際に法人税法施行令113条1項3号ロの規定の適用を受けた場合のみの金額を指すと捉えていたとすれば、「当該特定資産譲渡等損失額のうち、その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額に達するまでの金額とする。」という定め方とすることはなく、そのような定め方としているということは、同号イに掲げる金額は「その満たない部分の金額」よりも小さな金額となることがある、即ち、同号は支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額が簿価純資産超過額に相当する金額よりも小さな金額である場合にも適用されることがあると捉えていたということである。

 

  それでは、この法人税法施行令123条の9第1項2号イに掲げる金額とは、どのような金額となるのであろうか。

 

  この金額に関しては、法人税法施行令123条の9第1項2号に規定する「場合」は、支配関係事業年度の前事業年度終了の時において簿価純資産超過額がある場合であり、同113条1項3号に規定する「とき」は、同じく当該簿価純資産超過額がある場合において、当該簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額に満たないときであることからすれば、自ずと、当該簿価純資産超過額がある場合において、当該簿価純資産超過額が当該合計額以上であるときにおける金額ということになる。

 

  この支配関係事業年度の前事業年度終了の時の簿価純資産超過額がある場合において、当該簿価純資産超過額に相当する金額が支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額以上であるときとは、表2の網掛けの部分に該当するときということになるが、このときに法人税法施行令113条1項3号の規定の適用を受けると仮定すれば、同号ロにおいて同112条5項1号に掲げる金額とみなした金額の合計額は、支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額の全額となる。表2の網掛けの部分に該当するときは、支配関係事業年度の前事業年度終了の時の簿価純資産超過額がある場合において、当該簿価純資産超過額に相当する金額が支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額以上であるときであることからすれば、法人税法施行令113条1項3号の規定の適用を受けると仮定して、同号ロにおいて同112条5項1号に掲げる金額とみなした金額の合計額を計算した場合には、当然、当該合計額は、支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額の全額となる。

 

  このように、法人税法施行令112条5項1号に掲げる金額とみなした金額の合計額が支配関係事業年度以後の事業年度における欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額の全額となることを前提として、同123条の9第1項2号を適用してみると、「当該特定資産譲渡等損失額のうち、その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額に達するまでの金額とする。」という部分は、被合併法人の支配関係事業年度以後の事業年度において生じた欠損金で特定資産譲渡等損失相当額から成るものの合併法人への引継ぎの否認という形で対処した簿価純資産超過額の残額について、合併法人において特定資産譲渡等損失額の損金算入の否認という形で対処するものということになり、理論的かつ合理的な取扱いということになる(注3)。

 

  (注3)法人税法施行令123条の9第1項の特例は、平成13年の組織再編成税制の創設時に創ったものであるが、『平成13年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)において、次のように、支配関係事業年度の前事業年度終了の時に有する資産及び負債について「時価評価を行うとき」の特例となっており、他の書籍も含めて、当該特例の創設理由を述べたものの中に、上記2の表の網掛けの部分に当該特例を適用するべきでないと解すべき記述は全く存在しない。要するに、当該特例の創設理由から判断しても、「時価評価を行うとき」に該当する上記2の表の網掛けの部分に当該特例を適用するべきでないと解すべき事情はないわけである。

 

  「その法人が特定資本関係法人の特定資本関係事業年度の前事業年度終了の時に有する資産及び負債の時価評価を行うときは、特定資本関係法人の時価評価額等の状況に応じて特定引継資産に係る譲渡等損失額をその時価評価を基礎として計算した金額とすることができることとされています(法令123の9①)。」(228頁)

 

  このような取扱いは、法人税法施行令123条の9第1項2号イの「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合」について、実際に同113条1項の規定の適用を受けた場合だけでなく、同項の規定の適用を受けるとした場合を含む(注4)と解釈した場合の取扱いであるが、このように解釈すれば、上記のとおり、同123条の9第1項2号の取扱いは、理論的かつ合理的なものとなるとともに、「その満たない部分の金額からイ及びロに掲げる金額の合計額を控除した金額に達するまでの金額」という部分に関する上記の立法上の疑義も無くなることとなる(注5)。

 

  (注4)これは、現在の法人税法施行令123条の9第1項2号イの「第113条第1項(引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例)の規定の適用を受けた場合」の解釈を述べるものであり、同号の定め方を「適用を受けるとした場合を含む」とするべきであったと述べるものではない。法人税法施行令123条の9第1項2号の本来の定め方としては、上記2の表の「特例」にある「被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時に簿価純資産超過額がある場合」について「簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後の各事業年度において生じた欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額に満たないとき」と「簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後の各事業年度において生じた欠損金に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額以上のとき」とに場合分けを行い、それぞれの取扱いを規定するのが適当であったと考えられる。

 

  (注5)国税局の説明会においても、法人税法施行令123条の9第1項2号の特例について、簿価純資産超過額に相当する金額が被合併法人の繰越欠損金の合併法人への引継ぎの否認と合併法人における特定資産譲渡等損失額の損金算入の否認という形で課税を受ける旨の説明をしているものが見受けられるところであり、税務執行の現場においては、法令の条文の読解等がどの程度まで深くなされているかは別にして、既に上記のような解釈がなされているものと推測される。

 

  組織再編成税制の企画立案及び条文案の作成を行った筆者としては、法人税法施行令123条の9第1項2号イの文言に疑問がある状況にあることに関しては、忸怩たる思いがあるが、関係者の賢察によって補ってもらえるようであれば、幸いである。