Q&A

組織再編税制

 

営業本拠地と異なる場所に本店登記をすることの問題点

※T&Amaster(ロータス21)2011.7.18  No.411に掲載

 当法人のグループ会社は、合併等の組織再編成を多く行なってきたことから、法人の事業活動の本拠地となっている場所とは異なる場所に本店があり、事業活動の本拠地を所管する国税局と本店を所管する国税局が異なるという状態になっている法人がいくつかあります。このような状態は、税務の観点からすると好ましくないという話も聞いていますが、法人の本店と納税地に関してご教授をお願い致します。

要 旨

【マエストロの解説】

 合併等の組織再編成を多く行ってきたというような事情がある場合には、法人の事業活動の本拠地と本店として登記している場所が異なることとなって、事業活動の本拠地とは異なるところで納税を行い、税務調査を受けることとなる、といったことも起こってくることがある。

 

 しかし、事業活動の本拠地と異なるところを納税地とするということになると、深度のある税務調査を行い難いなどの課税上の問題が生ずることがあるため、無用な疑念を持たれるおそれもある。

 

 このため、事業活動の本拠地と異なる場所を本店として登記している場合には、本店の登記を事業活動の本拠地に移すことができないかということを検討したり、法人税法18条(納税地の指定)により納税地を事業の本拠地に指定してもらうことの適否について税務当局に相談することを考慮してもよいと考える。

 

1 納税地及び納税地指定に関する法令の定め

  法人の納税地は、「その本店又は主たる事務所の所在地とする」(法法16)、とされている。これは、法人税法においては、法人の納税地を事業活動の本拠地とする趣旨によるものである。

 

 しかし、法人は、その事業活動の本拠地以外の場所を本店として登記することが可能となっており、実際の事業活動の本拠地とは異なる場所を本店として登記しているという例が見受けられる。

 

 このような例は、従来は、信用力を高めたり、商号登記の都合によるものであったりするものが多かったと想定されるが、近年は、組織再編成を繰り返したことに伴って事業活動の本拠地と異なる場所が本店となっているというような例も見受けられるようになっている。

 

 このように、実際の事業活動の本拠地とは異なる場所が本店となっているという状態は、さまざまな事情によって生ずることとなるが、その事情の如何にかかわらず、結果として生ずるそのよう状態は、税務の観点からすると、決して好ましいものとは言えない。

 

 このため、法人税法18条1項において、「前三条の規定による納税地が法人(省略)の事業又は資産の状況からみて法人税の納税地として不適当であると認められる場合には、その納税地の所轄国税局長(政令で定める場合には、国税庁長官。以下この条において同じ。)は、これらの規定にかかわらず、その法人税の納税地を指定することができる」としている。この法人税法18条1項の「政令で定める場合」とは、法人税法施行令17条(納税地の指定)において「指定されるべき納税地が法第十六条から第十七条の二まで(納税地)の規定による納税地(省略)の所轄国税局長の管轄区域以外の地域にある場合とする」とされている。

 

 この納税地の指定に関しては、上記の法人税法18条の「納税地として不適当であると認められる場合」がどのような場合であるのかという点が最も重要となるが、法令には、その具体的な内容は定められていない。

 

 このため、この法人税法18条の定めをどのように解釈するのかということが問題となってくる。

 

2 納税地指定の取扱い

 上記の法人税法18条の定めの解釈につき、『会社税務釈義』(第一法規)に参考となる記述があるため、やや長くなるが、そのまま引用することとする。

 

「 納税地の指定については、次のような事項を参考として、総合的に事業活動の本拠地がいずれにあるかを判断することとされている。

(1)法人の定めている本店又は主たる事務所において、その法人の経営の監督、は握、事業活動がどの程度行われているか、また、本店又は主たる事務所以外の場所(例えば支店、事業所、工場等)においてこれらの事項がどの程度行われているかどうか等により判断する。すなわち、その具体的な判断としては、次のような事項がある。

① 法人の経営活動の計画が、いずれの場所で作成され、これに参加する者は誰か。

② 経営の指令及び事業の監督は、いずれの者が行い、かつ、これらの者は、常時いずれの場所において勤務しているか。

③ 法人の経営状況のは握、すなわち生産状況、販売状況等事業全体の経営の進行状況がいずれの場所では握されているか。

(2)事業の取引行為、例えば、商品若しくは原材料等の購入、商品若しくは製品の販売等の取引、これらの取引代金の授受及び金融取引が主としていずれの場所で行われているかを判断する。すなわち、具体的には、次の事項についてその主たる場所の判断をする。

① 商品又は原材料の購入の指令は、どこから行われ、その仕入先は、いずれの地域に主として存在するか。また、その商品等の納入場所はいずれか。

② 商品又は製品の販売は、どのようにして得意先と契約が締結され、その納入の通知はどこからされるか。また、その販売先への納入はどのような方法(汽車積、自動車運送等)によって行われ、その対象先はどの地域に存するか。

③ 商品等の購入代金の支払は、いずれを支払場所として行われるか。

④ 商品等の販売代金の受入れは、いずれの場所で行われ、その代金は、いずれに所在する銀行等の金融機関において行われるか。

⑤ 手形の発行の場合等の支払場所をいずれの場所としているか。

⑥ 金融上の借入資金は、いずれの地域の金融機関から行われているか。

 (3)法人の役員又は業務執行役員が、いずれの場所に生活の本拠(住所又は居所)を有し、かつ、いずれの場所において法人の業務を執行しているか。すなわち、法人の人的施設について、次のように具体的な事実を判断する

① 会社については、取締役会や業務執行役員会(いわゆる役員会)、会社以外の法人にあっては、理事会等の開催地又はこれらの会の構成員の主たる勤務場所はいずれか。

② 法人の各役員の所有するその法人の株式又は出資の持分は、その法人の発行済株式又は出資のうちどの程度の割合を占めているか。

③ その役員の法人における地位(例えば、社長、会長、常務取締役、専務取締役、平の取締役、監査役等)又は法人の代表権の有無等から、その法人においてどのような役割をもっているか。

④ 役員相互間における特殊な関係(例えば、親族、生計を一にする者等)があるかどうか。

(4)法人の所有する資産の所在場所が、主としていずれの場所にあるか。すなわち、法人の物的施設について、次のような具体的な事項を判断する。

① 法人の所有する工場等が数か所ある場合において、それぞれのその生産設備(固定資産)の価額又は生産額の全法人のこれらの金額のうちに占める割合はどうか。

② 棚卸資産の事業年度末における評価額は、各場所ごとにどのような分布状況になっているか。

③ 各場所ごとの従業員の状況(ことに職種別の内容)は、どのような分布となっているか。

(5)法人の経理、とくに取引の記帳、整備及びその取りまとめの状況は、主としてどの場所において行われるか、すなわち、具体的には、次のような事項について判断をする。

① 各事業所における記帳及び整理の取りまとめの記入及び整理をどこの場所で行うか。

② 法人全体の経理を明らかにする帳簿書類の作成、記帳は、いずれの場所において行うか。

③ 主要簿書類の保存場所は、どこか。

④ 決算についての指示、命令等は、いずれから行われ、その報告等はどこの場所で取りまとめるか。

⑤ 法人の主要取引等の契約文書の作成、調印及び保存等はいずれの場所か。

⑥ 各事業場相互間の連絡調整は、いずれの場所で行っているか。

(6)(1)から(5)までのほか、税務官署において、その法人の所得金額を補そくし、又は計算をする場合において、いずれの税務署においてすることが、最も適当であるかどうかを総合的に判断する。」(4631頁~4633頁)

 

 この記載は、国税当局内の納税地の指定に関する事務取扱要領を引用したものではないかと想定されるが、上記の法人税法18条の定めの解釈として妥当性がある内容となっていると考えられる。

 

 このように、法人税法18条の納税地指定制度は、国税庁及び国税局に対して法人の所得金額の捕そく等のために最も適当である税務署を決めることを求める制度となっている。

 

 国税庁及び国税局は、法人の業動の本拠地と本店登記地が異なる場合には、実際に納税地指定を行うこととなるのか否かは別として、常に、法人の事業活動の本拠地の所轄税務署と本店登記地の所轄税務署のいずれが所得金額の捕そく等のために最も適当であるのか、ということを判断しなければならないわけである。

 

3 問題点と対応

 法人の納税地及び納税地指定制度に関する法令の定めと取扱いは上記1と2において述べたとおりであるが、納税地指定制度については、法人の本店を変更するものではなく、あくまでも、法人の納税地を変更するに止まるものであるという点に留意する必要がある。

 

 法人は、事業の性質上、事業を行う場所が移動するものであったり、事業活動の本拠地において商号登記ができなかったり、取引の都合上、信用力を高める必要があったりするような場合に事業活動の本拠地以外の地を本店とすることがあると言われているが、法人税法においては、それらの是非を問題としているわけではない。

 

 換言すれば、基本的には、法人が事業活動の本拠地と異なる場所に本店の登記をする理由がどのようなものであるのかということは納税地の指定を行うのか否かということとは関係がなく、法人が事業活動の本拠地と異なる場所に本店の登記をする理由に合理性があれば納税地の指定が行われないということではない。

 

 ところで、近年は、税務調査対策のために、頻繁に本店を移動したり、事業活動の本拠地と異なる場所を本店としたりする例があると言われている。先般も、税務調査対策のために、組織的に、事業活動の本拠地とは異なる場所に本店の登記を行っているものがあるとして、これを問題視する声を聞いたところである。

 

<参考>『所得税、法人税制度史草稿』(大蔵省主税局調査課、昭和30年)

「 この納税地の指定が認められるに至つた裏面には次のような事情があつたのである。これは何も戦後に始つた例ではないが、法人税の増徴が度重なるにつれ、特に戦後においてはヤミ利得追求のため厳重な調査が行われ始めたのにつれ、本店を東京、大阪等に移転する法人が激増してきた。官庁との連絡、金融上の便という表面上の理由は掲げていても、事実上税金逃れのために移転した者も少なくなかったのである。理屈からいえば本店を大都会に移したからといって租税の負担が異なるわけのものではないが、現実の問題としては、大都会ではどうしても手がまわり兼ねる実情にあり、また単に看板を掲げているだけに過ぎない本店で主たる事業場の事業活動を知らないで調査しても、調査不徹底になり勝ちなのはやむを得ないことであり、その間隙を利用して脱税が行われていたのは事実であった。こうした事情を考慮して、法人の事実上の事業の中心地を納税地として指定する途が拓かれたのであつて、従来のように逋税の目的で本店を移転しても事実上無意味となるに至つたのである。」

 

 例えば、北海道や九州に事業活動の本拠地がある法人が総勘定元帳等の帳簿を東京に置いてそこで記帳を行うこととし、東京を本店として登記した場合に、どのような状態となるのかということを想定してみよう。

 

 このようなケースにおいては、納税地指定が行われなければ、当然のことながら、東京国税局管内の税務署が法人の所轄税務署ということになるわけであるが、その税務署が遠隔地の北海道や九州に本拠地のある事業の実態を正確に把握することは、非常に難しくなる。特に、税務調査においては、法人の事業活動の拠点が遠隔地にあることが少なからず障害となってしまう。

 

 これは、法人の事業活動の本拠地が本店の所轄税務署管内にある通常のケースと比較してみると明らかであり、国税職員として税務調査に従事したことのある者であれば、直ぐに分かることである。

 

 脱税行為や租税回避行為が行われていないのであれば、税務調査をやり難くすることを狙って本店所在地を事業活動の本拠地の遠隔地とする必要はないわけであり、上記のように北海道や九州に事業活動の本拠地がありながら本店を東京に置くというようなケースにおいては、当然、脱税行為や租税回避行為が行われている可能性が高くなっていると考えざるを得ない。

 

 もちろん、そのようなケースにおいても、建前としては、税務調査対策のために本店を東京としたということにはなっておらず、本店を東京とするための他の理由が用意されているはずであるが、要は、本当の狙いは何か、ということが問われるわけである。

 

 今後、法人の納税地に関して疑問があるものについては、納税地指定制度の積極的な活用が図られたり、税務調査体制の見直しが行われることとなるのではないかと想定されるが、納税者においては、事業活動の本拠地から遠隔地に本店の登記をして無用な疑念を持たれることとならないように、極力、事業活動の実態に即して本店の登記を行うこととする方がよいと考えられる。