【監修者】 朝長 英樹
【編著者】 小畑 良晴 塩野入文雄 竹内 陽一 掛川 雅仁
【共著者】 幕内 浩 秋本潤一郎 遠藤 亮輔 浅野 洋
有田 賢臣 大塚 直子 岸本 政昭 小林磨寿美
近藤 光男 佐々木克典 佐藤 増彦 鈴木 達也
武地 義治 内藤 忠大 中尾 健 西山 卓
長谷川敏也 藤野 智子
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は し が き
令和3年度税制改正は、ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図ることを主たる目的とする改正とされています。
この令和3年度税制改正を特徴づける改正項目としては、DX 投資促進税制(企業のデジタルトランスフォーメーションに向けた投資を促進する措置)、カーボンニュートラル投資促進税制、研究開発税制の直し、自社株対価 M&A促進措置などが挙げられます。
DX 投資促進税制は、「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による事業変革を行う場合に、税額控除(5%・3%)又は特別償却(30%)ができる措置となっています。
カーボンニュートラル投資促進税制は、カーボンニュートラルに向け、脱炭素化効果の高い先進的な投資(化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資)について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置となっています。
このカーボンニュートラル投資促進税制は、欧米に比べて出遅れ感が否めない環境対応を促進する措置として注目すべきものとなっています。本来であれば、もっと早く導入されていてもよい措置であり、今後、更に拡充が検討されてよい措置であると考えます。
実務において、これらの新たに創設された二つの税制に優るとも劣らず、重要となると考えられるのは、研究開発税制の見直しです。
研究開発税制に関しては、活発な研究開発を維持するという観点に立ち、厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる企業の税額控除の上限を引き上げる(現行:25%➡30%)とともに、インセンティブを高めるための控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ(現行:6%➡2%)を行い、クラウド環境で提供するソフトウエアなどの試験研究に要した費用について、研究開発税制の対象とする等の見直しをすることとされています。
研究開発税制の適用を受けることができる企業は、広範に及びますし、過去の歴史に照らしても、経営環境が厳しい中にあってこそ新たな革新的な技術が生まれるということがあるようですので、今回の研究開発税制の見直しがそのようなものに資することとなることが期待されます。もっとも、サービス業の割合が高くなっている状況では、厳しい経営環境を乗り越えるために、サービスを提供するビジネスのモデルを抜本的に見直して改革するということも、非常に重要であると思われますので、先々、製造に関する研究開発だけでなく、サービスの提供に関する研究開発というものに税制措置を講ずるということがあっても良いように思われます。
また、自社株式を対価として対象会社株主から対象会社株式を取得する M&A について対象会社株主の譲渡損益に対する課税を繰り延べる措置が活用を検討するべきものとして重要となり、また、中小企業にとっては、新たに創設される事業再編投資損失準備金も、繰り入れ時に大きな節税効果が出ますので、その利用を検討してよいものとなっています。
また、雇用環境の悪化に対応するため、中小企業者等について新規雇用拡大・教育訓練支援に着目した所得拡大促進税制の見直しも行われています。
コロナ禍の下で、生活の糧を得る仕事を失ったり大きく減らさざるを得なくなったりして生活支援を受けなければ日々の暮らしを維持することさえ困難となっているという人達が数多く出ているのは、周知のとおりですので、このような緊急事態への対応として、本来は、コロナ禍の後に向けた DX 対応やカーボンニュートラル対応などよりも、先に、コロナ禍を乗り切るためのもっと本格的で大胆な税制措置を講ずるということがあっても良かったのではないかと考えます。
所得税関係では、住宅ローン控除について、延長した上で、合計所得金額1,000万円以下の者について面積要件を緩和する(50㎡➡40㎡)などの措置が講じられています。
資産税関係では、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の課税どの措置が講じられています。
また、納税環境整備として、税務関係書類における押印義務の廃止や電子帳簿等保存制度の見直しなどの改正が行われていますので、注意する必要があります。
令和3度税制改正は、その概要を大まかに述べると以上のとおりですが、政省令や通達まで見なければ取扱いがよく分からないものがありますので、同改正の適用があると思われるものがある場合には、必ず、これらの内容まで確認をするようにしてください。
なお、本書は、「令和3度税制改正の大綱」(令和2年12月21日 閣議決定)に基づき起稿し、改正法律案に示された改正規定を追記する等によって作成しています。
本書が皆様方の日々の実務に少しでもお役に立つようであれば、幸いです。
最後に、本書の刊行にご助力を賜わりました清文社の宇田川真一郎氏に編著者を代表して御礼を申し上げます。
編著者を代表して
日本税制研究所 代表理事
代表理事 朝長英樹
税理士 竹内陽一
目 次
Ⅰ 法人税関係の改正
1 研究開発税制の改組・延長・1
2 欠損金の繰越控除制度の特例措置の創設・14
3 自社株式等を対価とする M&A を行う際の対象会社株主の株式譲渡損益の課税繰延制度の創設・18
4 DX 投資促進税制(事業適応計画:ソフトウェア及び事業適応設備)の創設・23
5 カーボンニュートラルに向けた税制措置の創設・29 (附記)「2050年カーボンニュートラル」について・34
6 給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度等の見直し・44
7 所得拡大促進税制の見直し(中小企業者等)・48
8 中小企業事業再編投資損失準備金制度の創設・51
9 中小企業投資促進税制の指定事業追加及び延長・59
10 中小企業経営強化税制の拡大及び延長・61
11 特定地域(過疎地域)における工業用機械等の特別償却の拡充・63
Ⅱ 消費税関係の改正
1 消費税の課税売上割合に準ずる割合の承認申請・65
2 産後ケア事業の非課税・66
3 国際郵便物輸出免税の輸出証明書類保存の整備・68
4 金白金地金の課税仕入れ保存書類の整備・70
Ⅲ 個人所得税関係の改正
1 住宅ローン控除の控除期間の特例措置の延長等・74
2 同族会社発行社債利子等・77
3 短期退職所得課税の適正化・78
4 国外居住親族・80
5 特定配当等に係る申告手続の簡素化(個人住民税)・82
6 子育て助成(ベビーシッター等補助)非課税措置の創設・84
7 セルフメディケーション税制の見直し・87
Ⅳ 資産税関係の改正
1 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課 税・90
2 教育資金一括贈与の見直しと延長・94
3 結婚・子育て資金一括贈与の見直しと延長・100 (附記)相続税と贈与税の一体的課税制度の構築に向けた検討・104
4 事業承継税制(相続税)の役員要件・113
5 所有者不明土地等の登記の義務化・115
6 3年ごと評価年の固定資産税の負担調整と減額・119
Ⅴ 国際金融都市に向けた税制改正
1 投資運用業非上場会社役員の業績連動給与の損金算入・123
2 海外からの高度金融人材に係る国外財産についての相続税の特例・126
3 ファンドマネージャーの組合利益分配の株式譲渡益分離課税の明確化・127
Ⅵ 納税環境の整備
1 電子帳簿等保存制度の見直し・129
2 租税条約の届出書等の提出手続の電子化・139
3 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化・142
4 地方税共通納税システムの対象税目の拡充・145
5 押印義務の廃止・148
6 納税管理人制度の拡充・149
7 国外からの納付方法の拡充・152
8 納付方法の拡充・152
9 納税地の異動と質問検査権の管轄の整備・154
10 e-Tax による申請等の方法の拡充・155
Ⅶ 自動車諸税関係の改正
1 エコカー減税の見直し・157
2 環境性能割の見直し・臨時的軽減の延長・157
3 クリーンディーゼル車に係る見直し等・158
Ⅷ 産業競争力強化法の改正
1 産業競争力強化法が税制に与える影響・160
2 産業競争力強化法の概要・161
3 認定制度・161
事業適応の円滑化のための措置・162