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どこがどうなる!? 令和6年度 税制改正の要点解説

【監修者】 朝長 英樹
【編著者】 小畑 良晴  塩野入文雄  竹内 陽一  掛川 雅仁
【共著者】 神谷 智彦  長基 公則  瀧沢 颯   大川 充穂
       浅野 洋   阿部 隆也  有田 賢臣  大塚 直子
       岸本 政昭  小林磨寿美  近藤 光男  佐々木克典
       鈴木 達也  武地 義治  中尾 健   西山 卓
       新沼 潮   長谷川敏也  藤野 智子  間瀬まゆ子
       棟田 裕幸

 

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は  し が き

 

  令和6年度税制改正においては、賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行い、また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる、とされています。加えて、グローバル化を踏まえてプラットフォーム課税の導入等を行うとともに、地域経済や中堅・中小企業の活性化等の観点から、事業承継税制の特例措置に係る計画提出期限の延長や外形標準課税の適用対象法人の見直し等を行う、とされています。

 

  このような基本方針の下、令和6年度税制改正においても、多くの項目の改正が行われることとなっていますが、そのような中でも、所得税・個人住民税における定額減税、法人税における賃上げ促進税制の強化、イノベーションボックス税制の創設などが大きな特徴となっており、交際費から除外される飲食費に係る見直しも、実務においては、見逃せない改正となっています。

 

  また、既に改正が行われて施行されているものではありますが、令和5年10月1日から始まったインボイス制度と令和6年1月1日から適用されている電子帳簿保存についても、実務対応に注意が必要となっています。

 

  所得税・個人住民税における定額減税は、デフレ完全脱却のための一時的な措置として、納税者及びその配偶者を含めた扶養親族1人(いずれも居住者)につき、令和6年分の所得税3万円、令和6年度分の個人住民税1万円の減税を実施するというものですが、合計所得金額1,805万円(給与収入2,000万円相当)超の高額所得者は対象外とされています。

 

  この定額減税は、周知のとおり、簡素な給付で対応するべきであるという声が多い中で、税制措置として実施することとされたものですが、税制措置として講じられたために、給与所得者、公的年金受給者、不動産所得・事業所得者等ごとに減税方法が異なるなど、制度が複雑で分かり難くなっており、実務においては、注意が必要となっています。給付で対応するべきものと税制措置で対応するべきものの判断は、適切に行われるべきであって、無用に税制措置を複雑にするようなことは、避けるべきです。

 

  法人税における賃上げ促進税制の強化は、物価高に負けない構造的・持続的な賃上げの動きをより多くの国民に広げ、効果を深めるため、賃上げ要件等について見直しを行うものとされており、従来の大企業と中小企業という枠組みとは異なり、新たに中堅企業という枠組みを設けて、従来以上に実態に合った措置が講じられます。この措置は、賃上げを促進するものとして、大いに期待されるものです。

 

  イノベーションボックス税制は、研究開発拠点としての立地競争力強化のため、国内で自ら研究開発した知的財産権から生ずる一定の所得について、所得控除を行う新たな制度として創設されるものですが、我が国にとっては、中長期的な観点からすると、非常に重要であり、あまりにも遅すぎる措置と言わざるを得ないものですので、来年度以降、大きく拡充するべきものと考えます。

 

  交際費課税については、平成18年度税制改正により、会議費相当とされる1人5,000円以下の飲食費が交際費等の範囲から除外され、全額損金算入されていますが、この5,000円以下とされている飲食費の金額基準が10,000円以下まで引き上げられます。この改正を機に、社内の交際費規定を見直すということがあっても良いように思われます。

 

  また、既に改正が行われて施行されているものではありますが、令和5年10月1日から始まったインボイス制度と令和6年1月1日から適用されている電子帳簿保存についても、実務においては、注意が必要となっています。これらは、法令の規定上は、納税者の実態をあまり考慮せずにやや現実離れした処理を求めているところがあり、実務家からも、疑問と懸念の声が上がっていましたが、実際の制度の運用においては、かなり納税者の実態に配慮した対応がなされるとのことですので、この実際の制度の運用がどのように行われることとなるのかということにも、注目しておく必要があります。

 

  このように、令和6年度税制改正においても、実務上、注意を要する改正が行われることとなっており、また、既に改正が行われて施行されているものについても、注意が必要となっているものがあることに、十分、留意する必要があります。

 

  なお、本書は、「令和6年度税制改正の大綱」(令和5年12月22日 閣議決定)に基づいて起稿し、改正法律案に示された改正規定を追記する等によって作成しており、図表に関しては、改正内容等を広くかつ正確に伝えるために、自由民主党税制調査会に提出された資料、財務省及び総務省が作成した資料、経済産業省等が作成した資料なども利用させて頂いているということを予めお断りしておきます。

 

  本書が皆様方の日々の実務に少しでもお役に立つようであれば、幸いです。

 

  最後に、本書の刊行にご助力を賜わりました清文社の宇田川真一郎氏に編著者を代表して御礼を申し上げます。

 

 

                                                      編著者を代表して

                                                      日本税制研究所 

                                                              代表理事 朝長英樹

                                                              税理士 竹内陽一

目 次

 

Ⅰ 個人所得税関係の改正

 

1 所得税・個人住民税の定額減税・1

 

2 扶養控除等の見直しの方向性・8

 

3 税制適格ストックオプション税制の拡充・13

 

4 エンジェル税制の拡充等・20

 

5 子育て支援政策税制(生命保険料控除の拡充・令和7年度見込み)・26

 

6 住宅ローン控除と子育て世代の優遇(特例対象個人)・28

 

7 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等の延長等・36

 

8 不動産取得税・譲渡契約書・新築住宅の特例の延長・38

 

Ⅱ 資産税関係の改正

 

1 固定資産税の負担調整措置・42

 

2 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等の延長・45

 

3 事業承継税制の特例承認計画の提出期限の延長・47

 

4 区分所有マンションの評価の改正・50

 

5 相続登記の義務化・55

 

6 新たな公益信託制度の創設・60

 

Ⅲ 法人税関係の改正

 

1 賃上げ促進税制の強化・67

 

2 (中堅企業向け)賃上げ促進税制の創設・72

 

3 (中小企業向け)賃上げ促進税制の拡充・延長・79

 

4 教育訓練費による上乗せ・82

 

5 子育て促進及び女性活躍認定への控除上乗せ(厚生労働省の認定制度=くるみん・えるぼし)・86

 

6 特定税額控除規定の不適用措置・92

 

7 中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充及び延長・96

 

8 法人事業税付加価値割における賃上げ環境の整備等・102

 

9 戦略分野国内生産促進税制の創設・103

 

10 イノベーションボックス税制の創設・107

 

11 暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し・115

 

12 オープンイノベーション促進税制の延長・123

 

13 交際費等損金不算入制度の改正・128

 

14 倒産防止共済の再加入の廃止・130

 

15 外形標準課税の減資への対応等・131

 

16 金庫株の譲渡対価の明確化・145

 

Ⅳ 国際課税関係の改正

 

1 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の見直し・147

 

2 外国子会社合算税制の見直し・152

 

Ⅴ 納税環境の整備

 

1 支払調書等の提出義務判定基準の引下げ・157

 

2 e-Tax の G ビズ ID との連携・158

 

3 処分通知等の電子交付の拡充・161

 

4 地方公金に係る eLTAX 経由での納付・163

 

5 第二次納税義務の整備・166

 

Ⅵ その他の措置法の改正

 

1 パーシャルスピンオフ税制の4年延長・170

 

2 中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例・173

 

3 欠損金の繰戻還付制度の不適用の2年延長・176

 

Ⅵ 消費税関係の改正

 

1 インボイス制度開始後の実務上の問題点・178

 

2 高額特定資産を取得した場合の高額免税点制度等の見直し・183

 

3 帳簿保存による仕入税額控除の適用を受ける場合の住所等の記載不要・184

 

4 国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し・185

 

5 国境を越えたデジタルサービスに係るプラットフォーム課税の導入・187

 

Ⅵ その他の改正

 

1 電子帳簿保存法の実務上の問題点・188

 

2 総則6項の適用が否認された最新の東京地裁判決・191

 

 

編集後記 ―「裏金」の税金問題―・193